神殺しのクロノスタシス6
10分ほどで、シルナはお盆にマグカップを乗せて、いそいそと戻ってきた。

「お待たせー。はい、羽久達の分もあるよー」

何で俺達のまで?

しかも、俺達の分までホットチョコレートだし。

…甘くない、熱い紅茶とかが良かったな…。

しかし。

「はいっ、羽久。どーぞ」

「…どーも…」

満面の笑みでマグカップを差し出すシルナの顔を見ていると、文句は言えなかった。

…嬉しそうで何より。

「さぁさぁ、おやつ食べよー。おやつ」

「学院長先生、おやつを食べながら、宿題教えてもらえませんか?」

「あ、私も」

どうやら、生徒達はそれが目的だったらしい。

おやつも食べたいけど、ついでに宿題も教えてもらおうと。

一石二鳥だな。

すると、耳聡いイレースが眉をひそめた。

「あなた達。順序が逆でしょう。出歩くのは宿題を終えてからにしなさい」

さすが元鬼教官。厳しい。

宿題をやらずに学院長室に遊びに来るなど、言語道断と言わんばかり。

しかし、シルナは鬼教官イレースにも怯まず、そんな生徒達を庇った。

「はい!セーフ!うちの学院ではセーフ!」

「何がセーフですか」

「宿題をやる前に糖分補給をすることで、より勉強に集中出来るようになると思うんだよ、私は。ねぇ羽久」

俺に同意を求めるな。

「そんな訳で、セーフ!宿題はおやつを食べてからにしよう!はいっ、チョコマカロンどうぞー」

…宿題を後回しにして、率先してチョコマカロンを勧める学院長。

これが国内最高峰の魔導学院の学院長だ。世も末だな。

「ちっ…。この自堕落パンダ学院長…」

イレースは舌打ちしていたが、生徒が遊びに来てくれて嬉しいシルナは、全く気づいていなかった。

まともに怒る方が疲れるぞ。

「菓子を食べながら勉強するなど、不真面目にも程があります」

怒るイレースに、天音とナジュが宥めにかかった。

「ま、まぁまぁ、イレースさん…。たまには良いんじゃないかな。甘いもの食べると捗るって言うし…」

「そうそう。この程度、今に始まったことじゃないじゃないですか。そんなことで目くじら立ててたら、白髪が増え、」

「…丸焼きになりたいんですか?」

ギロッ、と鬼教官の鋭い眼光を向けられ、ナジュはスッ…と目を逸らし、

あろうことか、天音を指差して責任転嫁した。

「…って、天音さんが言ってました」

「ええっ!?」

…ナジュ。お前って奴は。天音を売るな。

「…はぁ。ったくやれやれだな…」

傍から見ると滑稽極まりないだろうが、こんな他愛無いやり取りが出来るのも、皆が無事でいるからこそ。

出来ることなら、この平和な日常を壊されず、ずっと守っていきたいものである。
< 224 / 404 >

この作品をシェア

pagetop