神殺しのクロノスタシス6
駄目だ…。イレースに危機感を抱いてもらうつもりが。

むしろ、頼もしい教師仲間みたいになってる…。 

「イレースちゃん。イレースちゃんも一緒にチョコレアチーズケーキ食べ、」

「リューイさんがいてくれると、仕事が捗りますね。何処ぞのパンダ学院長の10倍は頼りになります」

「恐れ入ります」

イレースにもケーキを勧めようとしたシルナだったが、手痛いしっぺ返しを食らって撃沈。

仕方ない。日頃の行いって奴だな。

「それでは、私はこれで。明日試験が終わったら、採点するのを手伝ってもらえますか?」

「勿論です。ご協力しましょう」

「ありがとうございます」

そう答えて、イレースは珍しく、非常に満足そうな表情で学院長室を出ていった。

イレースの望み通りに授業計画が進むのが、嬉しくて仕方ないと見える。

そうか…。イレースに味方になってもらいたかったが…。

むしろイレースにとっては、リューイこそが唯一の味方、みたいになってるな…。

「明日、いきなり抜き打ちテストだなんて…。可哀想に。せめて明日の夕食のデザートにチョコをつけて、慰めてあげよう」

と、シルナ。

…それで慰めになれば良いけどな。

多分明日の放課後は、生徒全員、お通夜みたいな空気が漂ってると思うぞ。

ごめんな、生徒達…。俺、イレースを止められなかったよ。

…それもこれも、この得体の知れない天使のせいだ。

俺は、ジロッとリューイを睨んだが…。

「あれっ、羽久全然食べてない。美味しいよこれ。ほらほら、早く食べてみて」

おい、シルナ。俺は今リューイを睨んでるんだよ。

空気を読め、空気を。

「本当に美味しいよ!ミルクチョコのレアチーズケーキなら何度も食べたことあるけど、今回はホワイトチョコ!ホワイトチョコ特有のまろやかな甘さが、酸味のあるレアチーズクリームと絶妙にマッチして…」

食レポやめろ。

「そういう訳だから、ほらっ、羽久もどうぞ」

「…」

…毒の混入を疑わない…でもなかったが。

皆当たり前のように、普通に食べてるし…。

リューイ自身、俺達を毒殺する気があるのなら、イレースのテスト作りに協力したりはしないよな。

…分かったよ。

渋々、俺はレアチーズケーキに口をつけた。

「ねっ、美味しいでしょ?」

「…まぁ、そうだな…」

悔しいけど、王室御用達なだけあって、結構美味しかった。

いかにも甘そうだから、もっとこってりとした甘さがあるのかと思ったが。

意外とあっさり系のケーキだ。

ひとくち食べたら、すぐに次のひとくちを食べたくなる。そんな病みつきになる味。

成程、こうやってシルナを懐柔するんだな。

シルナはケーキ一つで簡単に騙せるだろうが。

俺は、このケーキの美味しさで懐柔されるようなことはないからな。
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