神殺しのクロノスタシス6
「皆さん、喜んでもらえたようで何より」

リューイは、ケーキを堪能する俺達を満足そうに眺めていた。

…本当にそう思ってる?

「毒入りだということも知らず、チョロい奴ら」とか、腹の中で馬鹿にしてたりしない?

その時、シルナが気づいた。

「あれっ。リューイ君は食べてないの?」

「…私ですか?」

「リューイ君も食べなきゃ駄目だよ。君が買ってきてくれたんだから。ちょっと待ってね、今取り分けるから…。はいっ」

シルナは、ホワイトチョコレアチーズケーキの皿を、リューイに差し出した。

「…」

しかしリューイは、じっとそのお皿を見つめるだけで、手を出そうとしない。

…何で?自分は食べないのか?

やっぱり、なんか変なもん入ってるから?

俺、もう半分くらい食べてしまったんだが。大丈夫なのか?

「さぁさぁ、食べてみて。凄く美味しいよ!」

「…いえ、私は遠慮しておきます」

えっ。

「?何で?チョコ美味しいよ?」

シルナ。誰もがお前のようにチョコレートが大好きだと思うなよ。

「甘いもの、苦手なんですか?」

「いえ…。そういう訳では…」

天音が尋ねても、リューイは返事を濁す。

やっぱり怪しい。

他人には食べさせるのに自分は食べないって。どう考えても地雷じゃないか。

しかし、リューイが言いたいのは、ケーキに毒物を仕込んでいるから自分は食べなく無いとか、そういうことではなく。

「私は天使ですから、天使は人間と違って、食事を摂る必要は…」

「なぁんだ、そんなこと?それを言うなら、私達だってその必要はないよ?」

一定以上の魔力を持つ人間は、体内の保有魔力をエネルギーに変換出来る。

その為、魔力を持たない(or魔力が少ない)人間と違って、食べ物からエネルギーを摂取する必要がないのだ。

天使もそうなんだな。そりゃそうか。

人間の上位互換、みたいな存在なんだろう?天使という奴は。

「嗜好品だよ、嗜好品。甘いもの食べたら幸せな気持ちになれるでしょ?」

「…そういうものですか?」

「そういうものだよ。だからリューイ君も一緒にケーキを、」

「食べる必要がない者が食糧を浪費するのは、食糧の無駄だと思いますが」

「うぐっ…」

痛いところを的確に突いてくるスタイル。

「それに、下界で人間の食べ物など口にしたと知られたら、熾天使様や他の大天使達になんと…」

リューイは、ボソッと何かを呟いた。

「ほぇ?ごめん、今なんて言った?」

「いえ、お気になさらず」

「ほらほら、リューイ君もどうぞ。私達だけ食べてリューイ君が食べないのは駄目だよ。皆で食べると、もっと美味しくなるからね!」

シルナに、強引にケーキを勧められ。

ようやくリューイは、ひとくち、ケーキを口にした。

「どう?どう?…美味しいでしょ?」

「…まぁ、悪くはないですね」

「でしょー!」

何でシルナが得意げなんだ?買ってきてもらった身分で。

…リューイ自身も口にしたってことは、毒物は入ってなさそうだな。

じゃあ、少しは俺も安心して食べられそうだ。

「皆で食べるケーキ、最高に美味しいね〜。やっぱり、後でイレースちゃんにも持っていってあげよーっと」

頭の中お花畑で、にっこにこ顔のシルナを。

「…」

リューイは、ケーキを食べながらじっと見つめていた。
< 229 / 404 >

この作品をシェア

pagetop