神殺しのクロノスタシス6
…それから、3時間ほど経った後。

「はぁ〜。今日も一日のお仕事が終わったね。仕事終わりの一杯…最高だね」

シルナは、しみじみとマグカップを傾けていた。

一般的に言う「仕事終わりの一杯」とは、アルコール類のことを指すが。

シルナの「仕事終わりの一杯」は、勿論、あっつあつのホットチョコレートである。

欲張りにマシュマロを三つも乗せて、スプーンで混ぜながら飲んでいた。

何処の世界に、仕事終わりの一杯にホットチョコレートを飲む奴がいるんだよ。

しかも、ついさっきまでホワイトチョコレアチーズケーキを食べたばっかりだっていうのに。

更に、今こうやって、甘々のホットチョコレートを飲んでいる。

想像しただけで、口の中が甘ったるくなってきた。

まぁ、シルナって下戸だから。仕方ないっちゃ仕方ない。

かく言う俺も、アルコール類はあまり得意ではない。

「羽久も一緒に、ホットチョコレート飲む?」

「要らねぇ。…そんなことより」

「?そんなことより?」

「…今のところ、体調に変化はなさそうだな…」

言うまでもなく、さっき食べたホワイトチョコレアチーズケーキのことだ。

遅効性の毒だったら、そろそろ効果が現れるんじゃないかと思って。

今のところ、俺もシルナも何の変化もない。

「何で?あのケーキに何か仕込まれてたんじゃないかって思ってたの?」

「当たり前だろ」

「まさかぁ。リューイ君はそんなことしないよ」

…根拠のない楽観視。

「何で、そう言い切れるんだよ?」

「だって、チョコスフレケーキや、チョコレアチーズケーキを差し入れしてくれるんだよ?悪い人のはずが、」

ふーん。

「…シルナ。俺は真剣に話してるんだけどな?」

「ちょ、落ち着いて羽久。分かったから。その振り上げたスプーンを下ろして!」

おっと、悪いな。

これでシルナの額をぶん殴ってやろうかと思ったよ。

「羽久、まだリューイ君のこと疑ってるの?」

「当たり前だろ」

むしろ、何で皆あんなに無警戒なんだよ。

「そっか…。良い人だと思うけどな、リューイ君…」

「…俺の場合は『前の』の影響で、どうしても、お前に近づく奴には過敏に反応してしまうからな」

「あ、そうか…。うーん。二十音も心配性だもんね…」

心配性って言うか、お前に変な虫がつくことを警戒してるだけだろうが。

ともかく、俺の中にいる「前の」俺の強い警戒心も相まって、どうしても安心出来ない。

「でも、リューイ君は大丈夫だと思うよ。本当に」

…また、あいつを庇う。

「だから、何でそう言い切れるんだよ?…ケーキをくれたから、っていうのは理由にならないからな」

「わ、分かってるよ…」

「お前、あいつがマシュリに何をしたか忘れたのか?」

マシュリ本人でさえ忘れているようだから、もう一度教えてやるよ。

あいつは、マシュリが裏切り者…シルナの仲間だということを知って、マシュリを殺そうとしたんだぞ。

断じて許せることではないだろう。…例えマシュリ本人が許したとしても。
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