神殺しのクロノスタシス6
成程、それで、生徒達に元気を出してもらおうと。

試験で傷ついた心を、チョコレートで癒やしてあげようと思って、わざわざ全校生徒全員分のチョコレートを用意していた訳だな。

ようやく納得したよ。

チョコレートくらいで癒せる心の傷ではなさそうだけど。

「私も試験問題、見せてもらったけどね…。あれは酷いよ。あんな難しい問題、生徒達が可哀想だよ…。」

…マジで?そこまで?

「そんなに難しいのか…?」

「羽久も見てみる?」

シルナは、今回の抜き打ちテストの試験問題を見せてくれた。

ざっと目を通しただけで、生徒達の苦難が伺い知れた。

これは…酷いな。

「むっず…!これ、俺でも厳しいぞ…」 

「でしょ…?」

重箱の隅をつつくような、それどころか重箱の蓋の隅っこをつつくような、非常にマニアックな問題の数々。

出題形式も意地悪で、選択問題とか穴埋め問題とか、そうう比較的答えやすい設問は一切なし。

全部記述式。論述式ばっかり。

単純に、問題の数も半端ないしな。

でっかい問題用紙に、びっしりと小さな文字で問題が並んでいる。

時間内に最後の問題まで辿り着けた生徒が、一体何人いたことか。

って思うくらい、意地悪な試験問題である。

で、それが全科目分だろ?

しかも抜き打ち。

もう地獄じゃん。地獄。

生徒の心が折れてないか心配である。

すると、その時。

「うぅ、こんな試験を受けさせられて、生徒達が可哀想だよ。イレースちゃんはもうちょっと容赦ってものがひつよ、」

「失礼しますよ、学院長」

「ふわぁぁ!出たぁぁぁぁ!」

噂をすれば何とやら、偶然イレースが学院長室に入ってきた。

「…出た、とは何ですか。まるで人を幽霊か何かのように」

「…」

シルナは俺の後ろに隠れて、ぷるぷると震えていた。

…情けない学院長だよ、お前は。

俺を盾にするな。

「一体何をやってるんですか?何ですか、それは」

イレースは、チョコレート菓子の詰まった段ボール箱を指差した。

しまった。イレースにバレないうちに、食堂に持っていこうと思っていたのに。

イレースにバレたら、またお金の無駄遣いだとか、時間の無駄遣いだとか言って叱られてしまう。

しかし、見られたものは、もうどうしようもなかった。

「生徒に配る為のチョコだってさ」

「ふーん。また性懲りもなく、そんなつまらないことを…」

つまらないことと言われて、シルナはビクッと反応していた。

…いつもなら、ここでイレースの説教が始まるところだ。

…しかし。

「まぁ良いでしょう」

えっ。

…良いでしょう、だって?イレースがあっさりシルナを許した…?
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