神殺しのクロノスタシス6
全校生徒にチョコレートを配った、その翌日。

まだ何も知らない、俺とシルナはというと。

「せっせ…せっせ…」

「…」

…またやってんぞ、シルナが。

昨日の今日で。またチョコ菓子を用意してる。

「…おい、シルナ」

「よしっ、全員分のチョコビスケットの用意、完了!」

完了、は良いから。俺の話を聞け。

「シルナ。聞いてるのか」

「え、何?」

「何、はこっちの台詞だ。お前こそ何やってるんだよ」

昨日、生徒にチョコ配ったばかりだろ。

それなのに、今朝また…今度はチョコビスケットを用意してる。

お前のチョコ菓子の在庫、どうなってるんだ?

「これね、朝食の時間に生徒皆に配ろうと思って」

無駄に目をキラキラさせながら答えてくれたよ。

見たら分かる。

「昨日配ったばかりなのに?」

「だって、ほら。昨日食後のおやつに袋詰めチョコを配ったら、皆凄く喜んでくれたでしょ?」

と、シルナ。

それはその通りである。

いつもならシルナがチョコを配布しても、「あーはいはいいつものね」みたいな反応なのだが。

抜き打ち試験で傷心中の生徒達にとっては、かなりの慰めになったらしく。

いつもより、ずっと生徒達に好評だった。

皆喜んで食べてたよ。

「チョコレートには、心の傷を癒やす力がある。人の心を癒やす力が。何よりも偉大な、心の清涼剤なんだよ…」

「…」

しみじみと何アホなこと言ってんだ?

良いか、チョコレートはそんな万能薬ではない。皆騙されるなよ。

しばらく食べてない食べ物を、久し振りに食べたら妙に美味しく感じるだろ?

あれだよ、あれ。

シルナじゃあるまいし、チョコレートくらいで元気いっぱいになるかよ。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど…それでも、私はチョコレートの力を信じる…!」

あっそ。

「で、また配るのか?」

「うん!今日からしばらく、チョコ活をしようかなって」

…チョコ活?

何それ。

「一日に一回、チョコレートのお菓子を食べる。これがチョコ活だよ」

あぁ、そういうこと。

就活とか腸活のノリで、チョコ活?

そんなの始めるのはシルナくらいだ。

「朝にチョコを食べることで、糖分を補給して、気分良く一日がスタート出来るでしょ?」

「それはお前だけだろ?」

朝から甘いものなんて食べたくねーよ、って思う生徒も、絶対いる。

…それなのに。

「これも生徒達の心の健康を守る為。学院長の大事な務めだからね!」

とか言って。

シルナは、いそいそとチョコビスケットを食堂に運んでいった。

あーあ…。「けったいなこと始めるな」って、イレースに怒られても知らないからな。
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