神殺しのクロノスタシス6
…しかし。

シルナのこの行動は、イレースに叱られるどころでは済まなかった。






シルナと共に食堂に向かうと、そこでは生徒達が喜んでチョコビスケットを食べている…なんてことはなかった。

むしろ、生徒達の表情には怯えが浮かんでいた。

それどころか、生徒達は誰も、チョコビスケットどころか、朝食に一切手を付けていなかった。

怯えた様子で、朝食のプレートを見下ろしていた。

「えっ…?」

これには、シルナもぽかんとしていた。

俺もである。

…一体どうしたんだ?皆。何かあったのか?

いつも生徒と一緒に食堂で朝食を摂っているが、こんなことは初めてだ。

「あっ…。そうか、分かった…!」

「シルナ?」

「ミルクチョコじゃなくて…ストロベリーチョコの方が良かっ、もごもごもご」

「そうか。お前はちょっと黙ってろ」

そんな呑気な空気じゃないだろ。

こうなったら役立たずのシルナではなく、生徒に直接聞く。

俺は、手近にいた生徒に尋ねた。

「どうしたんだ?皆、何で食べないんだ?」

「えっ…。だ、だって…」

近くにいた男性生徒は、怯えの表情でこちらを見上げた。

「皆の朝食に、変なものがついてるって…」

…変なもの?

「食堂が用意した訳じゃないのに、ビスケットみたいなものが全員についてるって…。怪しいから食べるなって、イレース先生から指示があって…」

やっぱり、原因はシルナのチョコビスケットだったらしい。

ほら言わんこっちゃない。

…あれ?でも、おかしくないか?

俺は、シルナと互いに顔を見合わせた。

確かに2日続けては初めてだけど、シルナが生徒にチョコ菓子を配るのは、今日に始まったことではない。

だから生徒達も、食事にデザートのチョコ菓子がついていても、「あーまた学院長か」と、生暖かい目で見てくれる。

それなのに、今日の生徒のこの反応。

まるで、食事に怪しい毒物でも混ぜられているかのようじゃないか。

それに、イレースだって。

シルナが事あるごとに、生徒にチョコレートを配ることを知っている。

だから朝食にチョコビスケットがついてたくらいで、「食べるな」と言うはずがない。

いや、それとも怒ったのか?

昨日の夕食の時にもチョコを配ったのに、性懲りもなく今朝も、と怒って。

それで、生徒達に「食べるな」という指示を出したのか?

でもイレース、昨日、あんなに機嫌良かったのに。

果たして、チョコビスケットくらいでそんなに怒るだろうか…?

…分からない。

「大丈夫だよ、それ美味しいよ、シルナ印のチョコビスケットを皆に、」

と、シルナは生徒に言おうとしたが。

「…ところで、新しい先生方ですか?」

「ふぇっ?」

その男子生徒は、俺とシルナを不思議そうな顔で眺めていた。

「今日赴任されたんですか?この時期に新しい先生方が…。珍しいですね。どの科目の担当なんですか?」

「ほぇっ?…ほぇっ!?」

シルナじゃないけど、俺も変な声が出そうになった。

え、えぇっと…。

…何のこと?
< 245 / 404 >

この作品をシェア

pagetop