神殺しのクロノスタシス6
マシュリに周囲を見張ってもらって、俺とシルナで職員室の窓ににじり寄った。

…やっぱり、突然窓から入ってきたらびっくりするよな?

外から窓をコンコンとノックして、中にいるナジュに気づいてもらおう。

…と、思ったのだが。

「…あっ…」

「…」

こちらが窓をノックしようとしたその時、丁度、窓を開けようと窓辺に寄ってきたナジュとご対面。

窓ガラス越しの再会。

…出来れば、もう少しマシな出会い方をしたかったもんだ。

これじゃあ、完全に不審者じゃないか。

「あっ、え、えぇとっ…。な、ナジュ君…」

「…」

「…や、やっほー」

…出てきた言葉は、それかよ。

努めて親しげに話しかけるシルナを、ナジュは怪しいものを見るかのような目で見つめ、

「…白昼堂々、空き巣ですか?」

と、尋ねた。

この反応…。

「確かにここは歴史のある学校ですが、あなた方が望むような金目のものはありませんよ」

知ってる。自分の学校だから。

「ち、違うよナジュ君。私達、空き巣に来たんじゃなくて」

「僕の名前知ってるんですか?空き巣じゃなくて、怨恨殺人か何かですか?」

「ち、ちがっ…」

…やっぱり、この反応。

ナジュも、俺とシルナのことを覚えてない。

もしかしたらナジュと天音は、と期待していただけに、ショックが大きいが。

でも、ショックなんか受けてる場合じゃない。

最悪、そこも想定内だ。

「ナジュ。俺達は空き巣でも強盗でも、殺人犯でもない」

「不法侵入者ではありますけどね」

それも誤解なんだって。

「今朝、学院に猫と不審な男が二人、我が物顔で忍び込んできたと聞きました。もしかして、あなた方のことですか?」

猫と、不審な男が二人…

マシュリと、俺とシルナのことか?

心外だよ。そんな物言いをされるとは。

いつも通り自分の家で目を覚ましただけなのに、何で一晩で不審者扱いされなきゃいけないんだ。

だが、頭に血を上らせてはいけない。

ここは冷静に、努めて冷静に話し合わなければ。

大丈夫、ナジュは話の通じる奴だ。

「良いか、よく聞いてくれ。不審者のように見えるかもしれないが、俺達はお前の仲間だ。味方なんだ」

「…」

ナジュは胡散臭そうに、じーっとこちらを見つめていた。

…そりゃまぁ、そうだよな。

記憶がないなら、そうなるのは当然だ。

俺だって、突然学院に知らない猫と男が現れて、「自分は君達の味方なんだ」と主張されても。

「何言ってんだお前?」って言うに決まってるからな。

でも本当のことだから。どうか信じて欲しい。
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