神殺しのクロノスタシス6
言葉でいくら「俺達は潔白です」と訴えても、理解してもらうのは難しい。

だが、何の為に、先にナジュに会いに来たのか。

俺達が潔白であることを、言葉ではなく心で、理解してもらう為だ。

「ナジュ。お前なら分かるはずだ。俺とシルナが嘘をついてないってことが」

「…えーっと。新手の宗教勧誘ですか?」

宗教勧誘じゃねーよ。

「読心魔法を使ってみてくれ。俺達が嘘ついてないって分かるだろ?」

今こそ、お前の十八番魔法を使う時。

普段のナジュなら、息をするように俺の心を読み、

「…読心魔法?…何の話ですか?」

…えっ?

俺もシルナも、思わず目が点になった。

「突然職員室に忍び込んで、突然意味不明な話をして…。もしかして、ちょっと危ない方ですか?」 

「あ…危なくねぇよ!意味不明でもない。読心魔法だよ!お前のお得意の!」

「読心…魔法?そんな怪しい魔法が存在するんですか…?」

…嘘だろ。

これは、俺もシルナも予想外だった。

ナジュと言えば読心魔法、読心魔法と言えばナジュってくらい、常日頃から読心魔法を濫用していたのに。

「ナジュから読心魔法を取ったら…何が残るんだ…!?」

「…初対面の相手に、随分酷いこと言われてる気がしますね」

だって。もう不死身しか残らないじゃないか。

「羽久。ナジュ君は読心魔法以外にも、風魔法とか得意だから」

と、横からシルナがフォローを入れてくれた。

そうだった。風魔法の授業担当はお前だったな。ごめん。

でも、風魔法を使う頻度と読心魔法を使う頻度、どちらが多いかなんて言うまでもない。

アテが外れた。

読心魔法を使えば、俺達の潔白を証明出来ると踏んで、ナジュに会いに来たのに。

なんとナジュは、俺達の記憶を失っただけではなく。

自分が読心魔法の使い手であるという記憶まで失っている。

…嘘だろ。そんなことある?

まるで、俺達を思い出す「都合の悪い」魔法は、使えないようになってるのか?

そんな、まさか…!

「そうだ、リリス…!お前の中にいるリリスなら、俺達のことを覚えてるんじゃないか!?」

そう思い当たって、俺はナジュに迫るようにして詰問した。

半分魔物の血が入っているマシュリは、このおかしな記憶喪失に陥っていなかった。 

ナジュは記憶を失ってても、ナジュの中にいるリリスは無事なのでは?

記憶をなくしている以上、俺やシルナが何を言っても無駄だが。

リリスの言葉なら、ナジュは信じるはずだ。

リリスに説得してもらえば、まだ何とか、

…しかし。

「…!…あなた、何で…リリスのこと、知ってるんですか?」

…ナジュは愕然として、震える声で聞き返してきた。

…え?
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