神殺しのクロノスタシス6

ナジュside

――――――…侵入者達は、職員室の床に風穴を開けて逃げ去っていった。

…物凄く派手に破壊した割には、人的被害は全くない。

まるで、僕達を傷つける意志などないと証明するかのように。

「…大丈夫?ナジュ君」

「はい…」

天音さんが、僕を気遣って声をかけてくれた。

…ようやく気持ち、少し落ち着いてきた。

リリスのこと、誰にも話したことないのに。

彼らは一体、何でリリスのことを知っていたんだろう。

彼らに会った時、妙な胸騒ぎがしたのは何故だったんだろう…。

「駄目だ。逃げられたみたい」

「近くには見つからなかったよ」

逃げた侵入者達の追跡に当たったすぐりさんと令月さんが、風穴の開いた職員室に戻ってきた。

「捜索の範囲、広げようか?」

「学院の外に出ても良いなら、数時間もあれば見つけられるよ」

「そうですか。いえ、その必要はありません」

と、イレースさんが答えた。

「逃してもいーの?あんな、いかにも怪しそうな連中」

「構いません。たった今、聖魔騎士団から連絡がありました」

…聖魔騎士団?

「聖魔騎士団にも、今朝、身元不明の侵入者が現れたそうです」

「えっ…」

「更に、その侵入者が、聖魔騎士団魔導部隊大隊長の一人…ジュリスさんを連れ去ったという話です」

「えぇっ…」

…何だか、めちゃくちゃなことが起きてますね。

控え目に言って、一大事ですよ。

「聖魔騎士団にも侵入者が…?でも、何でジュリスさんを…?」

「さっき居たよね、ジュリスって人。敵に味方してたけど?」

「その通りです。何故、連れ去られたジュリスさんが敵側についていたのか…」

…その侵入者とやらに脅されていたのか、それとも洗脳でもされていたのか…。

あるいは、ジュリスさん本人の意志なのか。

「とにかく、そこのところを、これから聖魔騎士団の方々と協議します。逃げた犯人の捜索、追跡はその後です」

「ふーん。りょーかい」

「分かったよ」

と、元暗殺者二人は素直に頷いた。

…。

「…ナジュ君、大丈夫?何か気になることでもあるの?」

僕の様子がおかしいことに気づいたのか、天音さんがそう尋ねた。

「それとも、まだ具合が…」

「あ、いえ…そうではなく…」

…心に何か、引っかかるものがある…ような。

彼らが言った、読心魔法というのは何だったのか。

それに…彼らはこうも言った。

「自分達は敵じゃない。味方だ」と。

…あれはどういう意味だったんだろう。

彼らが、僕を惑わす為に嘘をついた…?

でも、あの目…。あの、必死に訴えかけるような真剣な目…。

…果たして彼らは、本当に僕達の敵なのだろうか?

何か大切なことを…忘れているような、気が、

「うっ…」

「な、ナジュ君!大丈夫?」

胸の奥、心臓がズキッ、と強く痛んだ。

「へ、平気です…」

「…休んでた方が良いよ。イレースさん、僕、ナジュ君を保健室に連れて行ってくる」

「分かりました」

そんな、大袈裟な…。と、思ったけど。

「さぁ、行こうナジュ君」

「…はい…」

有無を言わせぬ口調で、天音さんに促され、保健室に連れて行かれてしまった。

もやもやするものを、胸のうちに抱えながら。



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