神殺しのクロノスタシス6
…かろうじて、下、着てて良かった。

いや、上ならセーフとかそういう問題じゃねぇから。

上でもアウトだよ。着替え中だぞ。

「だっ…なっ…何なんだお前は…!?」

急いで上着を羽織って、ひとまず見られちゃいけないところは隠し。

最高に慌てふためきながら、何とかそう尋ねた。

しかしその女は、着替え中の男の部屋に乱入したことに、全く何の恥じらいもなく。

「見てー。松ぼっくり拾ったー」

と言って、手のひらサイズの松ぼっくりを見せてくれた。

…何故松ぼっくり?

…つーか、お前…誰?

俺の部隊の隊員じゃないよな?よその部隊…?

いや、でも上着に聖魔騎士団の記章をつけてない。

こいつ…一体何者だ?何処から入ってきた?

「…お前、何者だ?」

「ほぇ?」

ようやく冷静になった俺は、ベッドサイドに置いていた杖を手に取った。

何処の誰だか知らないが、聖魔騎士団魔導部隊の隊舎に忍び込み。

わざわざ、大隊長である俺の部屋を目指してやって来た。

何処から情報が漏れていたのか。

いずれにしても、全く物怖じすることなく、この部屋に勝手に踏み込んできたのだ。

「間抜けそうな顔してるが…お前、只者じゃないな?」

「…間抜けそう…」

…ちょっとショック受けてた。

だって、本当に間抜けそうだから。

「その手に持ってるものは何だ?」

その女は、両手の拳に何かを握っているようだった。

「ほぇ?松ぼっくり」

「そっちじゃない。反対の手」

「こっち?こっちはねー、どんぐり」

どんぐりだと?

「しかも、傘付きのどんぐり」

ちょっと高級感を出してんじゃねぇ。

何でドヤ顔?

「今朝、庭を物色してたら見つけたんだー。ジュリスに見せてあげようと思って、持ってきた」

「物色…!?」

…何だ。空き巣か?

松ぼっくりとどんぐり目当てで空き巣する馬鹿が、この世の何処にいるんだ?

そこそこ長生きして、これまで色んな変わった奴らに出会ったことがあるが。

松ぼっくりを盗みに来る空き巣なんて、さすがの俺も見たことないぞ。

頭の中、大パニック。

「それ…本当に松ぼっくりか?」

「ふぇ?」

「まさか…松ぼっくり型の…手榴弾とか…」

「…しゅーりゅーだんって何?美味しいの?」

「いや、美味しくねぇけど…」

あと、しゅーりゅーだんじゃなくて。手榴弾な、手榴弾。

…何だろう。この、絶望的に会話が噛み合わない感じ。

もしかして…悪意があって忍び込んだ訳じゃないのか…?
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