神殺しのクロノスタシス6
「…」

俺は、目の前の女を不躾に、じろじろと見つめた。

…やっぱり間抜けそうな顔。

とてもじゃないが、悪いことを考えそうな…悪いことを考えられそうな顔には見えない。

だが、世の中の悪人ってのは大抵そういうもんだ。

「え?あの人がそんな悪いことを?」と言われるような人に限って、腹の中で悪どいことを考えてるんだよ。

目の前のこの女も、その類に違いない。

いかにも無害そうな顔をして、俺を罠に嵌めようとしているのだろう。

大体、聖魔騎士団の魔導隊舎に無断侵入している時点で有罪だ。

「あのねジュリス、一緒に松ぼっくりでフクロウつくっ、」

「黙れ」

無邪気に話しかける女に、俺は杖を構えて向かい合った。

もう油断しないぞ。

「…?」

「何が目的だ?誰の指示でここに来た?」

「目的…?だから、ジュリスと一緒に松ぼっくり、」

「黙れ。そんな戯言は聞いてない」

「…!」

そんなこと言われるなんて思ってもみなかった、って顔で。

その見知らぬ女は、きょとんとしていた。

…とぼけるのは上手いらしいな。

「そこを動くなよ。怪しい真似をしたらすぐ、」

「ジュリス…。ジュリスがおかしくなっちゃった」

は?

ぽろっ、と。

その女は、目尻から涙を溢した。

な…何だ?俺が泣かしたみたいじゃないか。

いや、俺が泣かしたんだけど。

演技か?俺の動揺を誘う為に演技をして、

「ジュリスが私に酷いこと言うなんて。ジュリスが私のこと…忘れちゃうなんて」

「え、えぇっと…?」

「そんなの…嫌だ」

そう、呟くなり。

涙を流したその女が、俺の目の前に迫ったかと思うと。

そのまま、ぎゅっと俺の身体を抱き締めた。

あまりに突然のことで、反応出来なかった。

「悪い虫が居るんだね。ジュリスの中に…。…お願い、ジュリスの中から出て行って」

「近寄るな!は、離せっ…!」

「返して。私の大好きなジュリスを」



その女…ベリクリーデから発せられた、聖なる白い光が。

「虫」に犯された俺の身体を、浄化した。



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