神殺しのクロノスタシス6
その瞬間、俺は全てを思い出した。

長い夢から覚めるかのようだった。

目の前にいる女が誰なのか、すぐに分かった。

「…ベリクリーデ…?」

「…ジュリス…」

気がつくと、ベリクリーデが俺にしがみついて、ぽろぽろと涙を溢していた。

えっ、あっ…ご、ごめん。

「だ、大丈夫か?ごめん、俺…」

「ジュリスが私のこと忘れちゃった…」

「ま、待て。思い出した。思い出したから泣かないでくれ」

「黙れって。近寄るなって言った…」

俺に拒絶されたのが余程ショックだったのか、ベリクリーデはぽろぽろと涙を流していた。

やべぇ…。何処からどう見ても俺が悪者…。

でも、自分でも何が何だか分からないんだよ。

俺は、自分が記憶をなくしてる間のことを覚えていた。

何で俺、さっきまでベリクリーデのこと忘れてたんだ?

意味が分からない。

と、ともかく今は、ベリクリーデを泣き止ませるのが先だ。

目の前で泣かれたら、気まずいどころじゃない。

「ごめん、ベリクリーデ…。もう思い出したから。もう二度とお前を忘れたりしないから…」

ベリクリーデの背中を優しくポンポンと叩きながら、俺はそう繰り返した。

「もう大丈夫だ。だから…泣かないでくれよ」

「もう忘れない?…私に酷いこと言ったりしない?」

「しないしない。約束する」

「松ぼっくりで遊んでくれる?」

「そ、それはどうかな…」

「ふぇぇ」

あぁ、分かった分かった。ごめんって。

「分かった。松ぼっくりで遊んでやる」

「ほんと?」

「あぁ、本当だ」

「…うん…」

そこまで言って、ようやくベリクリーデは泣き止んでくれた。

…ホッ。

代わりに松ぼっくりで遊んでやる約束をしてしまったが、ベリクリーデに泣かれるよりマシ。

ベリクリーデを忘れる…なんて大罪をやらかした自分が悪い。

…けども。

自分でも、何でこんなことになったのかさっぱり分からないのだ。

「ベリクリーデ…。俺、何でお前のこと忘れてたのか分から、」

と、言いかけたその時。

床に、グロテスクなピンク色の何かが蠢いた。

「…っ!?」

俺は、思わず驚愕に目を見開いた。
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