神殺しのクロノスタシス6
どうやらその猫、マシュリに何か言いたいことがあるらしく。

マシュリを見上げて、にゃーにゃー鳴いていた。

俺には、ただにゃーにゃー言ってるようにしか聞こえないが。

「にゃー。にゃーにゃー」

「にゃにゃーん」

「にゃにゃにゃー。にゃー」

「にゃーん」

…。

マシュリはその白猫と、猫語で会話していた。

…通じてんの?それ。

…人間の姿でにゃーにゃー言ってるもんだから、一見クレイジーな人にしか見えん。

案の定、ベリクリーデはそんなマシュリを眺めながら呟いた。

「…ジュリス、あの人危ない」

「やめろ。あいつはあれが平常運転なんだ」

う、うん。

確かに危なそうに見えるけど、あれでマシュリは至って真面目だから。

黙って見守ってやってくれ。

しばらくにゃーにゃー語で喋っていたが、報告を終えた白猫は、またタタッと駆け出していった。

あ、行っちゃった…。

「マシュリ…。あの猫、何だって?」

俺にはさっぱり分からないが、きっと物凄く重要なことを、

「うん…。4丁目のペットショップで期間限定猫缶のセールをやってるって」

「そうか…。予想以上にどうでも良い内容で驚いてるよ…」

「それから、聖魔騎士団が逃げた僕らの捜索を始めたようだって」

「そうか…。一転して予想以上にヤバい内容で驚いてるよ…」

最初の報告との落差。落差が激しい。

…え?マジ?

「…本当なのか?」

「うん。ネコミュニティの情報だから間違いない」

間違いないって言われても、俺にはそのネコミュニティとやらの信憑性が分からなくてな。

だが、マシュリがそう言うってことは、事実なんだろう。

…猫缶の情報、要る?

「既に近隣のニャットワークで感知されてるってことは、相当近くまで迫ってるね」

「マジかよ…!」

思えば、聖魔騎士団には探索魔法のプロ、エリュティアがいるのだ。

エリュティアの手にかかれば、俺達の捜索など朝飯前。

見つかるのは時間の問題と言っても良い。

「…ジュリス、ニャットワークって何?」

「…その話は後だ。雰囲気で理解しろ」 

ごめんなベリクリーデ。俺も同じ疑問を抱いたけど、今はそれどころじゃない。

「この路地裏も安全じゃないかもね。逃げた方が良い」

「でも…何処に?正直、エリュティアに見つからずに済む場所なんて…」

「…少なくとも、このルーデュニア聖王国の何処にも、エリュティア君から隠れられる場所はないだろうね」

と、シルナ。

…うん。俺もそう思う。

逃げるなら、もっと遠くに逃げる必要がある。
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