神殺しのクロノスタシス6
まずは、これからどう動くのかを考えなきゃならない。

いつまでも異空間に逃げてはいられない。ルーデュニア聖王国に、そしてイーニシュフェルト魔導学院に戻らなくては。

「ともあれ、まずは学院の皆を先に正気に戻そう。彼らの協力が得られれば、その後はうんと楽になるはずだよ」

と、シルナ。

その意見には賛成だ。

俺の精神衛生の為にも、イレースやナジュ達には、速攻で正気に戻ってもらわないと困る。

「まずはイーニシュフェルト魔導学院を取り戻して、学院を安全な状態にする。それから聖魔騎士団の皆だね」

イーニシュフェルト組に加えて、聖魔騎士団の面々も正気に戻すことが出来れば。

あとは楽なもんだ。皆で手分けして、残りの『ムシ』を追い払えば良い。

「ジュリス君、ベリクリーデちゃん。君達もそれで良い?」

「あぁ。結果的に全員正気に戻すなら、順番にはこだわらない」

「私も良いよ」

ジュリスとベリクリーデが話の分かる奴らで助かったよ。

まぁ、ベリグリーデは、よく分からないまま頷いてるだけかもしれないが。

「それじゃ、まずは学院の仲間達を何とかしないとな…。…誰から狙う?」

オペを行うには、それなりにおとなしくしてもらわなきゃいけないだろう。

当然向こうは『ムシ』を取り出されまいと必死に抵抗するだろうし、そうなると戦闘は避けられないかもしれない。

学院の仲間達がどれほど手強い相手であるかは、痛いほどよく分かっている。

その中でも、特に厄介なのは…。

「言わなくても分かってると思うが、令月とすぐりはヤバいぞ」

「…うん、分かってるよ」

イーニシュフェルト魔導学院でも、生粋の武闘派だからな。

元『アメノミコト』の暗殺者として、大人顔負けの実力を持っている。

マシュリほどじゃないが、人の気配や足音にも敏感だからな。

こっそり学院に忍び込もうとしても、すぐに見つかってしまうだろう。

しかも恐ろしいことに、あいつらは俺達を…敵を殺すことに、一切の躊躇いがない。

手加減してやろうとか、容赦してやろうとか、そういう手心は一切ない。 

ターゲットを見つけるなり、容赦なく殺しにかかってくる。

個々の実力もさることながら、それ以上に恐ろしいのは、二人の連携。

出会ったばかりの頃、仲違いしていたのが嘘のよう。

あの二人の連携は、キュレム・ルイーシュペアにも匹敵する。

令月かすぐりのどちらかだけなら、まだ何とかなるかもしれない。

だけど、二人揃ったら手がつけられない。

あの二人が揃った状態で相対することになったら、さすがに逃げ切れる気がしない。

勿論、あの二人以外…。イレースやナジュや天音も、充分脅威だけどな。

敵に容赦をしないという点では、イレースも同様。

不死身であることを抜きにしても、ナジュは充分強いし。

天音だって、普段優しそうに見えて、あれでやる時はやるのだ。

…あれ?そう思ったら、なんかやっぱり無理ゲーな気がしてきた。

早くも怖気づき始めている。これは良くない兆候。

「学院に戻ったら、臨機応変に動かなきゃならないことは分かってるよ。でも、私達が最初に狙うのはナジュ君にしよう」

と、シルナはきっぱり言った。

…へ?何でナジュ?

「何か根拠があって言ってるんだよな?」

「勿論だよ」

「じゃあ、その根拠ってのは?」

「ナジュ君が一番…正気に戻ってくれそうな気がしたから」

…はい?
< 283 / 404 >

この作品をシェア

pagetop