神殺しのクロノスタシス6
「どういうことだ?シルナ…」

「羽久も覚えてるでしょ?さっき、二度目に学院に戻った時」

職員室で、ナジュに鉢合わせした時のことだな?

「あの時、ナジュ君は明らかに様子がおかしかった」

「それは…そうだけど…」

それは、俺も覚えてるけど。

「でも、様子がおかしいのは、皆そうだろ?」

ナジュに限った話じゃない。天音もイレースも令月もすぐりも、皆おかしかった。

「そうだけど、でも他の皆が私達に杖を向けている中、ナジュ君だけはそうしなかったでしょ?」

「…そういえば…」

あの時俺は、不覚にもナジュの痛いところをついてしまって…。

リリスのことを思い出させてしまって、酷く苦しんでいるようだった…。

…知らなかったとはいえ、あれは悪いことしてしまった。

「それは、確かにおかしいですね」

「リューイ?」

リューイが、横から口を挟んできた。

「『ムシ』に精神を乗っ取られると、その者は本来の性格より攻撃的に、好戦的になるはずですから」

そうなのか?

そういや、覚えがある。

普段は平和主義で、戦うのが嫌いなはずの天音が、ろくに話も聞かずにこちらに剣を向けてきた。

「シュニィが問答無用で襲ってきたのも、それが理由か…」

と、ジュリスが呟いた。

そうらしいな。

おかしいと思った。普段のシュニィなら、例え侵入者が現れたとしても。

向こうが攻撃してこない限り、出来るだけ話し合いで解決しようとするはずだから。

それなのに、問答無用で襲ってきたのは、『ムシ』に性格まで変えられているから。

…人間の性格まで歪ませてしまうとは。なんて恐ろしい寄生虫なんだ。

「でも…皆が『ムシ』のせいで攻撃的になってるのに、ナジュだけはそうなってなかった…」

…何でだ?

その答えは、リューイが教えてくれた。

「確か読心魔導師殿は、冥界の魔物と融合しているそうですね」

「あ…。うん、リリスのことだろ?」

「恐らくそのせいでしょう。『ムシ』は、魔物には効きませんから。半分魔物の魂が混ざっている読心魔導師殿には、『ムシ』の作用が効きにくくなっているのかもしれません」

マジかよ。そんなことあんの?

成程。それじゃあ、ナジュは比較的…正気に戻ってもらいやすい、ってことなのか。

さすが自称イケメンカリスマ教師。ナイスだ。

「よし。それじゃあ、最初のターゲットはナジュだな」

「うん。ナジュ君が正気に戻ってくれたら、天音君を説得してもらえるかもしれないし…」

そうなったら最高だな。

果たして、それほど上手く行くかどうかは分からないが…。

上手く行かなかったとしても、いずれにしても俺達のやるべきことは変わらない。

やるしかないのだ。
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