神殺しのクロノスタシス6
シルナの空間魔法によって、俺達は再びルーデュニア聖王国に戻ってきた。

例の、猫マシュリの隠れ場所である路地裏である。

今のところ…この場所は、聖魔騎士団にはバレていないようだが…。

…ルイーシュが異空間まで追ってきて俺達を見つけたってことは、最早この国の中に安全な逃げ場所はない。

一刻も早く、目的を果たさなければ。

「学院に行こう。作戦通り、まずはナジュ君から正気に戻ってもらう」

「あぁ」

「マシュリ君。学院まで、見つかりにくいルートを通って行きたいんだけど、道案内頼めるかな」

普通に表通りを歩いて帰る道順なら、いくらでもある。

が、聖魔騎士団に追われているこの状況で、大手を振って道のど真ん中を歩く訳にはいかなかった。

自分の住処に帰るのに、こんなにコソコソしなきゃならないとはな。

「分かった。でもこの道は近所の猫の秘密ルートだから、他の野良猫には他言無用でね」

「大丈夫だ。俺に野良猫の知り合いはいない」

ついでに猫語も喋れないなら、他言したくても無理。

マシュリに案内されて、俺達は裏路地のほっそい道を通った。

俺、割と長いことルーデュニア聖王国で生きてるけどさ。

こんな道知らなかったよ。

まだまだ知らないことがたくさんあるもんだな。

しかも猫の道なので、何回かこっそり人んちの庭を横断したり、生け垣の下を潜ったりした。

頭葉っぱまみれなんだけど、もう気にしないでおこう。

だが、お陰で誰にも見つからずに、学院の近くまで戻ってこられた。

「はぁ…はぁ…やっと着いた…」

「ジュリス。猫の道面白かったねー」

「…面白かねーよ…」

頭に葉っぱを乗せたまま、ベリクリーデだけは目をキラキラさせていた。

楽しそうで何より。

余裕があるのは良いことだ。

問題はここから。

「学院の外ならまだしも、敷地内に入ったらいよいよ油断出来ないぞ」

「…そうだね」

ここから先は、暗殺者二人のテリトリーだ。

何なら、既に捕捉されている可能性すらある。

充分注意して進むべきだ。

「よし…行くぞ」

意を決して、俺達は裏門からイーニシュフェルト魔導学院の敷地内に入った。

その瞬間、マシュリが険しい顔で呟いた。

「…駄目だ。いるね」

「えっ?」

いるねって、何が。

「隠れてないで、出てきなよ」

「…気配は出してなかったはずだけど。よく僕らを見つけられたね」

声がして、初めて気がついた。

学院の敷地内に生えている桜の木の影から、ゆらり、と黒装束の小柄な人影が現れた。

…噂をすれば、何とやら。

「令月…。それに、すぐり…」

やっぱり捕捉されていたか。…さすが、この二人の目と耳は誤魔化せない。

木の上に隠れて、俺達を一撃で仕留める機を伺っていたのだろう。

人間を超越した嗅覚を持つマシュリがいてくれなかったら、今頃俺の首は、胴体と泣き別れだったかもな。
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