神殺しのクロノスタシス6
「のこのこ戻ってくるとは。馬鹿なのかなー?それとも命知らず?」

同じく黒装束を身に纏い、両手に糸を絡ませたすぐりが、殺気を滲ませてこちらを睨んでいた。

凄まじい迫力。

本気の令月とすぐりを前に、果たして切り抜けることが出来るのだろうか。

「あるいは、そこまでして成し遂げたい何かがあるのかな?」

「…あぁ。その通りだ」

よく分かってるじゃないか。

あるんだよ、俺には。お前達を正気に戻すという、大事な役目がな。

だから、こんなところで足止めを食う訳には…。

「…仕方ねぇ。ここは俺と…ベリクリーデに任せろ」

そう言って、ジュリスが一歩前に出た。

「ジュリス…!お前…」

「早く行けよ。ぐずぐずしてる時間が惜しい」

「でも、お前とベリクリーデだけじゃ…」

いくらジュリスといえども、正直、本気になった令月とすぐりの連携を前に、無傷でいられるとは思えない。

それにベリクリーデだって、彼女は実力こそあるものの、火力に物を言わせた大雑把な魔法が、彼女の売り。

令月とすぐりみたいな、暗殺者らしい精密、かつ繊細な戦術が得意なタイプとは、非常に相性が悪い。

…しかし…。

「心配するな。この程度のピンチ、軽く乗り越えてみせるさ」

「…何か、策があるんだな?」

「そんなところだ。だからさっさと行け」

…分かった。それなら。

ジュリスを信じて、この場は任せる。

「行こう、羽久。マシュリ君」

「あぁ」

「分かった」

ジュリスとベリクリーデをその場に置いて、俺達は背中を向けて駆け出した。

「逃がすと思って…」

「お前らの相手は俺だ」

俺達を追いかけようとした令月を、ジュリスが止めた。

「…君ら二人だけで、俺と『八千代』を止められると思ってんの?」

すぐりは、いかにも不機嫌そうな顔でジュリスとベリクリーデを睨んだ。

「やると言ったんだから、やってみせるさ。…どんな手段を使ってもな」

ジュリスは、自分の身体の中に封印していた「それ」を…。

『魔剣ティルフィング』を手に、構えた。

禍々しい魔力が奔流し、さすがの令月とすぐりも、半歩引いて警戒を強めた。

更に、ジュリスは。

「起きろ、ベリーシュ。見てるんだろ?」

傍らにいるベリクリーデに、いや…正しくは、そのベリクリーデの中にいる「もう一人」に呼びかけた。

「力を貸してくれ。お前の力が必要なんだ」

「…」

ジュリスの呼びかけに、「彼女」…ベリーシュが目を覚ました。

「…分かった。手伝うよ」

「よし…。頼むぞ。この場を切り抜ける」

ベリクリーデと入れ替わって、表に出てきたベリーシュは。

両手に、長さの違う剣…愛用の星辰剣を構えた。

ジュリスとベリーシュ、二人の雰囲気がガラリと変わったのを見て、令月とすぐりは。

「雰囲気が変わったね。…厄介そうだ」

「多少は骨がありそうじゃん。いーよ。受けて立つよ」

一切怯むことなく、ジュリスとベリクリーデに対峙した。
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