神殺しのクロノスタシス6
血飛沫が舞い、怯んだナジュがその場に倒れた。

同時に、血飛沫と共に、肉の塊のようなものが宙を飛んだ。

な、何なんだ?

ともかく、まずはナジュを守るのが先だ。

「ナジュ…!大丈夫か!?」

「…う…」

どうやら、意識はあるようだ。

胸の傷は、早くも塞がりかけていた。

ナジュは元々不死身の身体だから、胸を切り裂かれようが死ぬことはないが。

不死身であることを抜きにしても、マシュリはかなり手加減していたらしく。

念の為にシルナが回復魔法をかけると、あっという間に傷は塞がった。

良かった。

「ナジュ…。しっかりしろ。頼むから正気に戻ってくれ」

「…僕は正気ですよ、羽久さん」

えっ。

「面倒かけましたね…。…随分ややこしいことになってるようで」

このぞんざいな口調…。もしかして、ナジュ。お前…。

「も…戻ったのか?記憶…」

「戻りましたよ。思い出しました」 

「本当に…?」

『ムシ』に操られてるとかじゃないよな?洗脳が解けたフリして襲いかかろうとしてる、とかじゃ。

「心配しなくても、そんな卑怯なことしませんよ」

「…!」

無遠慮に俺の心を読んでくる。

間違いない。

いつもの…俺の知ってるナジュだ。

「良かった…!ナジュ君、正気に戻ってくれたんだね…!」

「えぇ…。お陰で助かりましたよ。僕からリリスを奪おうなんて、随分ふざけたことをしてくれたものです」

全くだな。

…でも、元に戻ってくれて良かった。

「マシュリ、お前のお陰だ。ありがとう…」

と、俺は咄嗟に割って入ってくれたマシュリに礼を言った。

「見てられなかっただけだよ。リリス様を『なかったこと』にされて…それより」

と言ってマシュリは、床の上を指差した。

「羽久、あれ」

「え…」

マシュリの指差す先に、先程宙を飛んだ肉の塊のようなもの…。

…赤ん坊の手首くらいの太さのある、ぎょろりとした目の付いたミミズが、床の上をのたうっていた。

…うぇっ…。

「何だあれ…!?気持ち悪っ…」

「物凄く嫌な臭いする…。多分、あれが『ムシ』だね」

『ムシ』?あれが?

ジュリスやリューイが言ってた、人間の心臓を餌にする寄生虫?

「あんなにキモいのか…。うきうきしながらチョコレート食ってる時のシルナ以上にキモいものはないと思ってたけど、あれはそれを越えるな…」

「ちょっと。羽久が私に失礼なこと言ってる!」

うるせぇ。今それどころじゃねぇだろ。

「つーか、あまりにもデカくないか?ジュリスが飼ってたのは親指サイズだって言ってたのに…」

「ジュリス君より寄生してる時間が長かったから、それで大きくなったのかも…」

「こんな短時間で、これほど成長するのか…」

なんて成長速度だ。恐ろしい。

あんなキモい肉の塊が、心臓の中に巣食ってるなんて…。

そのミミズは、床の上でしばらく苦しげにのたうったかと思うと。

「あ…消えた…」

しなびた黒い灰のようになって、さぁっと消えていった。

…これで、一匹目退治だな。

いや、ジュリスのも合わせて二匹目か?
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