神殺しのクロノスタシス6
「『賊』は昨日の早朝、イーニシュフェルト魔導学院、及び聖魔騎士団魔導部隊隊舎に忍び込みました。学院に侵入した賊は三名、魔導部隊隊舎に侵入した賊は一名。その賊が、ジュリスさんを連れ去りました」

…だってさ。

それって、今学院で待機してる、ベリクリーデっていう女の人のことだよね。

「更に、賊達は一度逃亡した後、またイーニシュフェルト魔導学院に戻ったそうです。目的は不明ですが…」

二度目に学院長達が戻ってきた時のことだね。覚えてるよ。

不死身先生を説得しに戻ってきたんだけど、結局説得には失敗して、また逃げてった。

「その後もう一度逃亡し、今度は異空間に逃げたそうです。エリュティアさんが探索魔法で捜索し、ルイーシュさんに追跡してもらったのですが…」

「ルイーシュの奴は、まだ戻ってこない」

物凄く不機嫌そうな声。

あの人は確か、ルイーシュって人の相棒だっけ。見覚えがある。

部屋の中にいる全員、目がギラギラ血走ってて怖いね。

さながら、捕食形態のオオカミの群れだよ。

「…はい。ルイーシュさんも、賊に囚われたものと思われます」

囚われたどころか、『ムシ』を取り除いて正気に戻ったんだけどね。

「賊達は現在、再びイーニシュフェルト魔導学院に戻り、学院を占拠して、根城にしているようです」

占拠。根城。酷い言い方だ。

学院長達はただ、自分の住処に戻ってきただけなのに。

でも、彼らにはそんな理屈は通じない。それは分かってる。

だって、ついさっきまでの僕だったら。

今、会議室で話してる彼らと変わらなかっただろうから。

少し考えれば、学院長達が僕らの敵なんかじゃないってことは分かるはずなのに。

そんな簡単なことが分からない。記憶に蓋をされて、ただただ、強い攻撃的な衝動に駆られていた。

とにかく目の前の「賊」を討伐する。それだけしか考えられなかった。

自分でも信じられないけど、実際そうだったのだ。

今なら、それが心臓に巣食っていた『ムシ』のせいなんだと分かる。

今、下の会議室にいる彼らもそうなのだ。

『ムシ』に支配されて、冷静に考えることが出来なくなっている。

このままじゃ、本当に徒党を組んで学院に攻め込んできそうだ。

「私達はこれから、イーニシュフェルト魔導学院に赴き、学院とジュリスさん、そしてルイーシュさんの奪還作戦を行います」

ほら。言わんこっちゃない。

敵は本能寺に、ならぬ。

敵はイーニシュフェルト魔導学院にあり、と言わんばかり。

敵じゃないんだけどな。

「賊の討伐が最優先です。見つけたら、速やかに手を下してください」

過激派だね。

生け捕りにする必要はない。すぐさま殺せ、と。

正義の聖魔騎士団らしからぬ命令。

これも、多分『ムシ』によって凶暴化してるせいだろうね。

そこは、連れ去られた仲間を保護するのが最優先じゃないの?

「学院には、生徒がいるはずですが…」

と、横から別の大隊長が口を挟んだ。

「賊を討伐する為です。多少生徒に犠牲が出たとしても、それは不可抗力でしょう」

これには、思わず僕と『八千歳』は驚いて顔を見合わせた。

…この人、めちゃくちゃ言ってるよ。
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