神殺しのクロノスタシス6
…さて、フユリ様との謁見を行った、数日後。




「…で、どうだ?シルナ。フユリ様はなんて?」

「…返事がない、って」

シルナは困ったような表情で、そう答えた。

…そうか。やっぱりそうなるよな。

フユリ様はあれからすぐ、兄のナツキ様に手紙を書いてくれたらしい。

真実を暴露する手紙を。

だが、ナツキ様は今のところ、無反応。

どころか、手紙を持っていった特使を、王宮から締め出す始末だったそうだ。

…手紙を受け取ってももらえないとは。

どんだけフユリ様のことを嫌ってるんだ。

「そりゃそうでしょう。側近二人は皇王に真実を暴露されたら困るのだから、真実を知る可能性があるものは、徹底的に排除するのが当然です」

と、イレース。

…だよなぁ…。

「まぁ、無理だろうなとは思ってたよ。例え手紙を受け取ってもらえたとしても…。多分、ナツキ様の心には響かないだろうから」

「…『ムシ』の時もそうだったもんな」

「うん…」

『ムシ』に寄生されたイレース達に、いくら「お前は操られてるんだ」と訴えても、全く聞く耳を持ってもらえなかった。

それと同じだ。洗脳されている者は、自分が洗脳されていると気づかない。

いくら他人に「お前は洗脳されているのだ」と訴えられても、そんなはずはないと鼻で笑うだけ。

洗脳されている自覚があるなら、それはもう洗脳とは呼ばないもんな…。

「…やっぱり、最初に考えてた方法を実効に移すしかないね」

シルナが、そう呟いた。

最初に考えてた方法…?

「こんな時、リューイさんがいてくれたら…意見を聞くことが出来たのにね」

と、天音。

「全くだよ…」

餅のことは餅屋に聞くのが一番。

それと同じで、天使のことは天使に聞くのが一番だ。

だから、リューイが居てくれたら、どうすればナツキ様の洗脳を解くことが出来るのか、リューイに聞けたのに…。

肝心な時に、あの天使、姿を見せない。

気づいたらいなくなってた。

「ったく、あいつ何処行ったんだ…?」

何も言わずに姿を消しやがって。薄情にも程がある。

さっさと戻ってこいよ。

「姿が見えないと言えば…令月君とすぐり君もいないね。マシュリ君も…」

「あぁ…。あいつらもあいつらで、何処行きやがったんだ…?」

この非常事態、ルーデュニア聖王国の行く末を左右するであろう大事な局面で。

あいつらは会議にも参加せず、何処に行きやがった?

「ナジュ、知ってるか?」

「令月さんとすぐりさんなら、園芸部の畑です」

とのこと。

畑?

「こんな時に農作業かよ…」

「ほら、土に撒いた腐葉土に、『ムシ』が混じってたでしょう?あれが相当悔しかったらしくて」

あぁ、そういうこと…。

「土を全部入れ替えて、今度は市販の腐葉土ではなく、自分達で山に行って腐葉土を作って、畑に撒くことにしたそうです」

「…凄い執念だな…」

腐葉土を自分で作るって、マジ?

余程、『ムシ』に操られたのが悔しかったらしい。
< 319 / 404 >

この作品をシェア

pagetop