神殺しのクロノスタシス6
令月とすぐりは、園芸部の畑にいる。

「…じゃ、マシュリは?」

「さぁ。マシュリさんは読心魔法が効きませんからね。でも、大体何処にいるのかは検討が…」

と、ナジュが言いかけたその時。

噂をすれば、猫形態のマシュリが、窓の外からひょいっと室内に飛び込んできた。

おぉ、来た。

窓から入ってくんな。

「マシュリ…。お前、何処行ってたんだ?」

「猫仲間のところ」

何?

マシュリは、その場でくるっと一回転。

人間の姿に『変化』し直した。

「この間、協力さてもらったお礼に、約束の猫缶をプレゼントしてきたんだ」

「あぁ…成程…」

その節はどうも。

マシュリの猫仲間、ネコミュニティの皆さんには大変世話になった。

猫缶くらい、シルナのポケットマネーでいくらでも買って、いくらでも振る舞ってあげてくれ。

「マシュリの猫仲間もそうだが、珠蓮にも世話になったよな…」

「うん…。でも、珠蓮君、全然お礼を受け取ってくれなくて…」

あの後、珠蓮はすぐにまたルーデュニア聖王国を去っていった。

お礼を申し出たのだが、丁重に辞退されてしまった。

「また何かあれば呼んでくれ」と言い残して、また旅立っていった。

申し訳ないなぁ…。せめて、落ち着いてお礼くらいさせてくれよ。

「これ以上、色んな人に迷惑をかける訳にはいかない。…早く、元凶を何とかしないとね」

「…それは分かってる。でも、どうするつもりだ?」

フユリ様の説得にも応じてくれないのに、他の誰がナツキ様を正気に戻すことが…。

「この国であれこれ話し合いをしてても、事態は何も解決しない。…ともかく、現場に行ってみないと」

「現場…?」

…シルナ、まさか。

「…行くつもりなのか?アーリヤット皇国に、直接?」

「…うん。もう、それしか方法はないと思う」

そりゃまた…思い切った作戦だ。

原因の大本を、直接断つつもりか。

確かに、それが一番確実で…でも、一番困難な道だ。

「私は賛成ですよ。天使ごときに洗脳されるような馬鹿は、ぐだぐたと回りくどい真似をするより、取っ捕まえて二、三発ぶん殴った方が良い」

珍しく、イレースはシルナの案に賛成。

…イレース。相手は、仮にも一国の王様だぞ。フユリ様のお兄さんなんだぞ?

ぶん殴ったら国際問題だろ。

「ぼ、暴力は良くないと思うけど…。でも、直接アーリヤット皇国に行くしかないっていう意見には、僕も賛成かな…」

「『ムシ』に洗脳されていた僕らがそうだったように、ともかく術者から離すのが一番でしょうね」

天音と、ナジュが言った。

…そうだな。

『ムシ』に洗脳されていたイレース達が、『ムシ』を体内から引き離すことで洗脳が解けたように。

天使に洗脳されているナツキ様も、その天使達から引き離すことによって、洗脳が解けるかもしれない。

何はともあれ、まずは原因の大本から、ナツキ様を救出する。

その為には、俺達が直接、アーリヤット皇国に赴くしかない。
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