神殺しのクロノスタシス6
そんなことはまだ知らない俺達は、早速、アーリヤット皇国に乗り込む為の作戦を立てていた。

「やっぱり海路で行くべきだよな…」

アーリヤット皇国が俺達にしたことを、今度は俺達がやり返す。

ルーデュニア聖王国に届く輸入品の積み荷の中に、『ムシ』を仕込んだように。

アーリヤット皇国に届けられる積み荷の中に、俺達がこっそり潜めば良いという訳だ。

…船酔い、辛そうだな。

四の五の言ってられないから我慢するが。

「私が留守の間、学院の運営は完璧に続けてもらわないと…」

イレースはと言うと、自分が居ない間の授業計画を綿密に、みっちりと立てていた。

…実にイレースらしい。

ちなみに俺達が不在の間、学院の方は聖魔騎士団に応援を頼むつもりである。

いつもごめんな。シュニィ。

「医療品の用意はしっかりしておかないと…。風邪薬、酔い止め、鎮痛剤に消毒液…」

天音はと言うと、持っていく医薬品の整理を綿密に行っている。

こちらも真面目である。

一方。

「天音さんは医薬品の用意より、剣を研いでおいた方が良いのでは?」

「なっ…ナジュ君!」

「いやぁ格好良かったですよねぇ。『『俺』は敵の言葉に耳は貸さない。君が敵の手に落ちたなら、一緒に斬り、」

「うわぁぁぁ!ナジュ君っ!それはもう忘れてってぇ!」

…まーたナジュが天音をいじめてら。

ったくあいつと来たら…。不死身なのを良いことに、ろくに準備も何もしてやがらねぇ。

身一つで充分ってか?それはお前だけだ。

「令月とすぐりは?何やってるんだ、さっきから」

「宿題」

「俺も」

令月は筆を、すぐりは筆ペンを、それぞれせかせかと動かしていた。

…宿題…?

「アーリヤット皇国への遠征中、通常の授業は受けられませんからね。その補習を兼ねて、二人に特別課題を課しました。明日までに終わらせなさい」

ギロッ、と二人を睨んで命じる、鬼教官イレース。

本当に鬼教官である。

遠征前はゆっくりして体調を整えておきなさい、とかいう優しさはまるでない。

しばらく授業受けられないんだから、特別課題でもやってろ、と。

恐ろしい奴だよ、イレースは。

「…マシュリは?マシュリは何処で何をやってる?」

「猫仲間と近くのペットショップを巡回に行くんだって」

「…何をやってんだあいつは…」

猫なのか人間なのか竜なのか、はっきりしろ。

まぁいつも通り過ごしてるってことで、マシュリなりにリラックスしているのだと思おう。

…ペットショップを巡回って、一体何をチェックしてるんだ?

新発売の猫缶の情報とか…?知らんけど。

「シルナ…。そろそろ俺達も遠征の準備、」

「…ほぇ?」

シルナはと言うと、口いっぱいにチョコシュークリームを頬張っていた。

…思わず、ボディブローを入れたくなる衝動を必死に抑えた俺、偉い。
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