神殺しのクロノスタシス6
さて、そうと決まれば。

何はともあれ、まずはアーリヤット皇国に潜入して、ミカエルとラファエル…ハクロとコクロをナツキ様から引き離し。

それが無事に済んでから、次はリューイのご主人様の救出だ。

やることはいっぱい。山積みだぞ。

早速、ルーデュニア聖王国の港に問い合わせたところ。

ルーデュニア聖王国から、アーリヤット皇国の隣国に向かう船があるとのことだった。

輸出品を届ける船である。

これがフユリ様公認の秘密任務であることを説明し、その船にこっそり密航させてもらう手筈を整えた。

あとは、この船に乗り込むだけである。

俺は最低限の荷物だけをまとめて、学院を後にして港に向かった。

いよいよ、アーリヤット皇国潜入の旅に出発である。

緊張の瞬間…の、はずだったのだが。







「はいっ、皆。チョコどうぞー」

「…こんな時でも、お前はいつも通りで余裕だな…」

早速、船に乗り込み、出港を待っている間。

まずは手始めに、とばかりにシルナは手持ちのリュックから、箱入りのチョコレートを取り出した。

無賃乗船してるんだぞ、俺達。余計なもん持ってくるんじゃねーよ。

これが終わったら、後で船の船長に謝礼を渡す予定である。

「折角の船旅だよ?肩の力を抜いていこうよ」

お前は力を抜き過ぎだ。

それに…。

「船旅って言ったって、俺達、この貨物室から出られないだろ」

船旅と言えば、何だかリッチなクルーズ船にでも乗っているかのような印象を受けるが。

そういうのじゃない。決して。

そもそもこの船は、旅行用のクルーズ船なんかじゃない。

ただ荷物を積んで届けるだけの、輸送船に過ぎない。

船内の設備は最低限だし、おまけに俺達は、船長に無理を言ってこっそり便乗させてもらっている身。

この船の中で、俺達が乗船していることを知っているのは、船長以下、ほんの数人のみ。

他の乗組員は、俺達が忍び込んでいることを知らない。

従って俺達は、他の乗組員に姿を見られないよう、こうして貨物室に閉じこもって。

船が目的地に着くまで、息を殺して潜んでいなければならないのである。

…折角の船旅なのに、眺められるものと言ったら、貨物室に大量に詰め込まれた木箱や布袋だけ、とは。

密航させてもらってるんだから、文句を言ってはいけないのは百も承知。

だが、この後待ち受けている船旅を思うと、早くもうんざりした気持ちにさせられた。
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