神殺しのクロノスタシス6
…勝とう、と思った訳じゃない。

せめて、刺し違えることが出来れば良かった。

それが無理なら…せめて、少しでも時間を稼ぎたかった。

…でも。

「…ごめんなさい」

次の瞬間、僕の視界が真っ赤に染まった。

他には何も見えなかった。

見えないけれど、でも、自分が今どんな状態なのかは、目で見るまでもなかった。

僕は、文字通り全身を八つ裂きにされて、地面に這いつくばっていた。

この身体に宿っている心臓の全てが、完膚なきまでに破壊されているのをはっきりと感じた。

…万事休す。

ここまでだった。

何もかも、全部ここまで。

終わりは、あまりにも呆気なく…。

「…どう、して…」

心臓が止まって、命が尽きるまでの僅かな時間。

僕は地面に手を付き、身体を持ち上げるようにして問い掛けた。

「なんで…こんな、ことを…」

どうして僕を殺すのか、と聞きたいんじゃない。

どうして、僕達を攻撃するのかと聞きたかったのだ。

先程、畑の土の中に見つけたモノ。

あれがルーデュニア聖王国に広がれば、とんでもないことになる。

この国を崩壊させるには、充分過ぎる代物だ。

壊したいのか。ルーデュニア聖王国を。

それとも…。

「答える義理はない…と言いたいところですが、そのせいで命を奪われるあなたには、知る権利があるでしょうね」

彼女の声には、僕に対する憎しみも怒りもなかった。

ただ憐れみ、悲しみを帯びた声色だった。

僕を八つ裂きにして殺したのも、それは敵意からではなく…。

ただ、そうしなければいけないからという義務感から…。

「裁きを下す為です。…裏切り者に」

「さば…き…。うらぎり…?」

…何なんだ、それは。

もっと強く問い詰めたかった。一体誰が裏切り者なのか。誰が、誰に裁きを下そうとしているのか。

何の為に?

聞きたかった。聞いて、そして、仲間達に警告したかった。

…だけど、心臓を全て破壊された僕に、もうそのような時間は残されていなかった。

真っ赤だった視界は、真っ黒の暗闇に変わっていた。

もう何も見えなかった。聞こえなかった。

…ここまで、か。

折角生き延びたのに…未来を…明るい、幸福に満ちた未来を…。

スクルトが命を賭して、僕に与えてくれた未来を…。

…これ以上、生きて、見ることは出来なかった。

「…スクルト…。…みんな…」

叶うなら、もう一度彼らに…異端であり、バケモノである僕を愛してくれた彼らに。

最後に一目、会いたかっ…。
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