神殺しのクロノスタシス6
ベーグルサンドを購入してから、僕達は駅に戻ってきた。

良い時間潰しになりましたね。

「はい、こっちが天音さん。イレースさんはこっちをどうぞ」

「ありがとう、ナジュ君」

「誰が私の分まで買ってきなさいと言いましたか」

まぁまぁ、良いじゃないですか。

協調性は大事ですよ。一応、三人で旅行しているっていう設定なんですから。

一人だけ食べてなかったら、不自然じゃないですか。

僕は、買ってきたベーグルサンドを天音さんとイレースさんに手渡した。

じゃ、早速食べてみますか。

海外旅行で現地の食べ物を買って食べる時って、ちょっとドキドキしますよね。

どんな味がするのかなって。

「もぐもぐ…。うん、美味しいですね」

「本当だ。挟まってるお肉がジューシーで、美味しい」

と言いながら、天音さんはベーグルサンドを頬張っていた。

お口に合ったようで何よりです。

…じゃ、そろそろ種明かしをしても良いですかね。

「天音さん、それ、何の肉だと思います?」

「えっ?チキンじゃないの?フライドチキン…」

フライドチキンのベーグルサンド。いかにも美味しそうですね。
 
でもそれ、実はチキンではないんです。

「それはフライドスネークサンドです」

「えっ…す、スネークって…」

「ヘビですね」

「…」

ベーグルサンドを食べる、天音さんの手が止まった。

ついでに思考も停止していた。

ふふ。期待通りの反応をありがとうございます。

天音さんのそういうところ、凄く好きですよ。

「蛇肉は、アーリヤット皇国では普通に食べられてる食材だよ」

キャリーケースの中から、マシュリさんが教えてくれた。

そうみたいですね。

ルーデュニア聖王国では奇食扱いだけど、世界では蛇食って、結構一般的だったりするんですよ。

割と淡白な味で美味しいとか。

さっき天音さんも、ジューシーで美味しいって言ってましたしね。

「…ちなみに、毒ヘビだそうです」

「えぇっ…!?」

二度びっくり。

大丈夫ですよ。ちゃんと毒抜きはしてありますから。

ヘビ肉サンドを手に、固まってしまっている天音さんをよそに。

イレースさんは、平気な顔をしてベーグルサンドを口にしていた。

…ふむ。

「イレースさん、ヘビ肉に驚かないんですね」

「ヘビくらい何だというのです。大袈裟に騒ぐことではありません」

イレースさんはそう言うと思ったので、あなたに渡したのは違うベーグルサンドなんです。

「イレースさんのはヘビじゃないんですよ。何だと思います?」

「パリパリとしていて芳ばしいですね。小エビやナッツに近い味がしますが…」

ほう。なかなか的確ですね。

「それはクモです。油で揚げた、フライドスパイダー」

「そうですか」

全く顔色を変えないイレースさん、さすがです。
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