神殺しのクロノスタシス6
令月side
――――――…その日の夜、僕と『八千歳』はいつも通り深夜のパトロールを行なっていた。
…思えば、僕達が現場に居合わせていれば、また何かが違っていたのかもしれない。
とはいえ。
あの時、マシュリが相対した敵の正体を知っていれば。
僕達が現場に居合わせていても、多分、死体の数が一つから三つに増えていただけの話だ。
だったらやっぱり、これで良かったのかもしれない。
「…何だか、今日は嫌な感じがするね」
暗闇の校舎を歩きながら、僕はポツリとそう呟いた。
いつも通り、学生寮の窓から飛び出した…までは良かったのだけど。
校舎の見回りをしながら、段々と雲行きが怪しくなってきた。
空気がひりついているような…。緊張しているような…そんな嫌な感じ。
特に理由がある訳じゃない。ただ、そんな気がするというだけ。
だけど、こういう自分の第六感的な本能には、可能な限り従っておくべきだと、これまでの経験で学習している。
こういう嫌な予感がする時は、大抵、後で痛い目を見ることになるのだ。
僕の考え過ぎ、気の所為であって欲しかったのだけど。
「あ、やっぱり『八千代』もそう?実は、さっきから俺も変な感じしてるんだよねー」
あ、そうなんだ。
僕だけじゃなかったんだ。良かった。
「暗殺の仕事の時コレを感じたら、大抵碌でもない目に合うんだよねー」
「うん」
凄くよく分かる。
暗殺者あるあるだね。理由は分からないけど、上手く行かない予感がする。
そんな時無理すると、大抵酷い目に遭うんだよ。
だからって撤退したら仕事にならないから、結局無理をするしか選択肢がないんだけど。
そのせいで、今まで何度背筋が凍る思いをしたことか。
こんな暗殺者あるあるを語れるのは『八千歳』だけで、他の人に通じないのが残念である。
「何だろーね?また誰か学校に忍び込んだ?」
「分からない。『八千歳』は何処から感じる?」
「うーん…。強いて言うなら…外かな?」
「やっぱりそう思う?」
今歩いている校舎内じゃなくて、学校の校舎の外から感じる。
異様な気配。近寄り難い気配を。
藪をつついて蛇を出すという言葉があるように、敢えて自ら危険に身を晒す必要はない。
ろくな目に合わないことは分かっているのだから、近寄るべきではない。
…これが普通の人なら、ね。
僕も『八千歳』も、あんまり普通ではないから。
何より、危険に身を晒すのが他の誰かだったら、それはきっと、僕らが危険な目に遭うよりずっと悪いから。
例え何が現れたとしても、『八千歳』と一緒なら大丈夫だよ。多分。
あ、でも。一応先に聞いておこう。
僕は窓に足をかけて、『八千歳』に振り向いた。
「…行くよね?」
「あったりまえじゃん。誰に言ってんの?」
だよね。愚問だった。
「じゃあ、行こっか」
「よし、行こー」
鬼が出るか蛇が出るか。はたまたもっと別のものが出てくるか。
これまで様々な困難を二人で乗り越えてきた。
『八千歳』と一緒なら、恐れることは何もない。
…思えば、僕達が現場に居合わせていれば、また何かが違っていたのかもしれない。
とはいえ。
あの時、マシュリが相対した敵の正体を知っていれば。
僕達が現場に居合わせていても、多分、死体の数が一つから三つに増えていただけの話だ。
だったらやっぱり、これで良かったのかもしれない。
「…何だか、今日は嫌な感じがするね」
暗闇の校舎を歩きながら、僕はポツリとそう呟いた。
いつも通り、学生寮の窓から飛び出した…までは良かったのだけど。
校舎の見回りをしながら、段々と雲行きが怪しくなってきた。
空気がひりついているような…。緊張しているような…そんな嫌な感じ。
特に理由がある訳じゃない。ただ、そんな気がするというだけ。
だけど、こういう自分の第六感的な本能には、可能な限り従っておくべきだと、これまでの経験で学習している。
こういう嫌な予感がする時は、大抵、後で痛い目を見ることになるのだ。
僕の考え過ぎ、気の所為であって欲しかったのだけど。
「あ、やっぱり『八千代』もそう?実は、さっきから俺も変な感じしてるんだよねー」
あ、そうなんだ。
僕だけじゃなかったんだ。良かった。
「暗殺の仕事の時コレを感じたら、大抵碌でもない目に合うんだよねー」
「うん」
凄くよく分かる。
暗殺者あるあるだね。理由は分からないけど、上手く行かない予感がする。
そんな時無理すると、大抵酷い目に遭うんだよ。
だからって撤退したら仕事にならないから、結局無理をするしか選択肢がないんだけど。
そのせいで、今まで何度背筋が凍る思いをしたことか。
こんな暗殺者あるあるを語れるのは『八千歳』だけで、他の人に通じないのが残念である。
「何だろーね?また誰か学校に忍び込んだ?」
「分からない。『八千歳』は何処から感じる?」
「うーん…。強いて言うなら…外かな?」
「やっぱりそう思う?」
今歩いている校舎内じゃなくて、学校の校舎の外から感じる。
異様な気配。近寄り難い気配を。
藪をつついて蛇を出すという言葉があるように、敢えて自ら危険に身を晒す必要はない。
ろくな目に合わないことは分かっているのだから、近寄るべきではない。
…これが普通の人なら、ね。
僕も『八千歳』も、あんまり普通ではないから。
何より、危険に身を晒すのが他の誰かだったら、それはきっと、僕らが危険な目に遭うよりずっと悪いから。
例え何が現れたとしても、『八千歳』と一緒なら大丈夫だよ。多分。
あ、でも。一応先に聞いておこう。
僕は窓に足をかけて、『八千歳』に振り向いた。
「…行くよね?」
「あったりまえじゃん。誰に言ってんの?」
だよね。愚問だった。
「じゃあ、行こっか」
「よし、行こー」
鬼が出るか蛇が出るか。はたまたもっと別のものが出てくるか。
これまで様々な困難を二人で乗り越えてきた。
『八千歳』と一緒なら、恐れることは何もない。