神殺しのクロノスタシス6
昨日は、何事もなく順調な旅だった。

そのせいだろう。中継都市を出発するまで、僕達は若干気が緩んでいた。

今日も昨日のように、順調な旅であって欲しいと願っていた。

…の、だが。






皇都行きの列車が出発して、僅か15分足らずのことだった。

昨日と同じように、ボックス席に座っていると。

早速、車掌さんが車両の扉を開けてやって来た。

…おっと。

「…また切符の点検かな…?」

こそっと、天音さんが僕に聞いてきた。

さすがに、今日の天音さんは寝たフリはしていない。

始発の列車から寝るのもどうかと思いますしね。

…しかし。

今日の車掌さんは、切符の点検はしなかった。

きょろきょろと車両の中を見渡し、無遠慮に乗客を見つめていた。

…非常に怪しい雰囲気ですね。

「ど、どうしたんだろう…?」

「しっ。静かにしなさい」

イレースさんに叱咤され、天音さんは慌てて口を閉じた。

そうですね。今は極力、目立たない方が良さそうです。

キャリーケースの中のマシュリさんも、何やら感じたらしく。

大人しくじっとして、借りてきた猫のごとく静かにしていた。

やがて、のろのろと車両の中を歩いていた車掌さんが、僕達の席の前に来た。

隣の天音さんの心臓が、バクバク言う音が聞こえてきたが。

イレースさんも僕も、しれっとして、「全然何も疚しいことはありません」みたいなフリを装った。

天音さんも、頑張って出来るだけ窓の外に視線を向けていた。

頑張ってください天音さん。

「…」

車掌さんは、しばし僕らをじっと眺め。

それから、何も言わずにまた別の席の客のもとに歩いていった。

…ホッ。

どうやら、一応は難を逃れたようですね。

「だ…大丈夫かな…?」

車掌さんが車両を出て行ってから、天音さんが青い顔をして聞いてきた。

…さぁ。どうとも言えませんね。

「どうやら、昨日のように快適な旅とは行かないようですね」

と、イレースさん。

「…そうみたいですね」

場合によっては、皇都に辿り着く前に手前の駅で降りた方が良いかもしれない。
< 355 / 404 >

この作品をシェア

pagetop