神殺しのクロノスタシス6
「良かったよ、皆…。無事に皇都まで来ることが出来たんだね」

シルナもホッとしたようだった。

こいつらなら大丈夫だと信じてはいたけど、でも、ここは敵国。

何があるか分からない。ずっと心配だったんだ。

「そっちはどうだった?山賊に襲われたんじゃないかって…」

と、マシュリが聞こうとすると。

「へーきへーき。ぜーんぶ蹴散らしてやったよ。ねぇ、『八千代』」

「うん。身ぐるみを剥がされる前に、こっちが山賊の身ぐるみを剥いでやったよ」

頼もし過ぎる令月とすぐりが、それぞれ自慢げにそう答えた。

「…質問を変えるよ。山賊が襲われたんじゃないかって心配だったんだ」

「そ、そうか…」

そうだな。山賊に襲われた、って言うか…。

逆に…こっちが山賊を襲ったみたいになってる。

「そっちも無事だったか?列車ルートは順調な旅だったのか?」

「あ、えぇと…」

言い淀む天音。

おい、どうした。

俺としては「うん、大丈夫だったよ」と答えてくれることを期待していたんだが?

すると、天音の代わりにイレースが答えた。

「問題ありません。天音さんがヘビを食べさせられ、ついでに彼氏にフラれたことになっただけで」

「…!?」

「それ以外は、そこそこ快適な旅でした」

…ごめん。ちょっと意味分かんないんだけど。

…それ、本当に快適な旅立った?

快適(当社比)。

「…天音、一体何があったんだ?どういうことなんだよ」

「…うん…。大丈夫…」

おい。こっちに視線合ってないぞ。

何があったのか分からないが…とりあえず、全員揃って合流出来たんだから良し、ってことで良いか?

…そういえば、さっきから気になることが。

「…随分大人しいじゃないか、ナジュ」

いつもは饒舌に喋るはずのナジュが、公園のベンチに腰を下ろしたまま、さっきから一言も言葉を発していない。

お前が静かだと、逆に不気味なんだが?

「…不気味とは…失礼な言い草ですね…」

ようやく顔を上げたナジュの、力のない声と、元気のない顔色を見て。

俺も、シルナもぎょっとした。

これはただ事ではない。

「な、ナジュ君…!?一体どうしたの?」

「ナジュ、大丈夫か?具合が悪いのか」

慌ててナジュに駆け寄ると、彼は構わなくて良いとばかりに、ひらひらと手を振った。

「大丈夫です…。大袈裟に騒ぐことじゃありません」

「いや、騒ぐだろ。そんな具合悪そうな顔して…」

不死身のナジュが体調を崩してるなんて、まず滅多に有り得ることじゃない。

考えられるとしたら…。

もしかして、お前、また…。

「ナジュ君、僕達の為に読心魔法を多用して…。それで、体調を崩してしまったんだ」

頑なに気丈なフリを装おうとするナジュに代わって、天音がそう答えた。

…やっぱり。
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