神殺しのクロノスタシス6
真っ先に動いたのは、元暗殺者組の令月とすぐりだった。

考えるより先に行動、の精神で、二人は目にも止まらぬ速さで、バニシンとイルネに肉薄した。

「令月、すぐり…!」

一切狙いを過たず、令月の小太刀がバニシンの胸を。

すぐりの鋭い糸が、イルネの胸を、それぞれ貫いた。

それで、『ムシ』は体内から飛び出すはずだった。

…しかし。

「…!」

バニシンは胸を斬り付けられながら、まるで動揺していなかった。

それどころか、令月の小太刀を素手で掴んだ。

ついさっき研いだばかりの鋭い令月の小太刀が、バニシンの手のひらに食い込んで血が滲んだ。

それでも全く構わずに、強く、更に強く小太刀を握り締め。

ついに、バキッと音を立てて、令月の小太刀の刀身が折れた。

「…!」

そんな、馬鹿な。力魔法で強化した令月の小太刀を、片手で、握り潰すように折るなんて。

令月は咄嗟に折られた方の小太刀から手を離し、バニシンから距離を取ろうとした。

しかし、バニシンはそれを許さなかった。

人並み外れた凄まじい速さで、令月の手首を掴んだかと思うと。

まるで玩具でも投げるかのように、令月の小柄な身体を思いっきり、壁に向かって投げつけた。

一般人なら、その一撃だけで全身の骨が砕けて即死するところだ。

「令月!!」

「…かはっ…」

あの状況でも、咄嗟に受け身を取ったらしく。

令月は床に膝を付きながらも、意識を保って上体を起こしていた。

その目は、まだ戦意を失っていない。

だが、いくら受け身を取ったとはいえ、あれほど強く叩きつけられて平気なはずがない。

口元に溢れた血を拭っているのが、何よりの証拠だった。

しかも、ダメージを受けたのは令月だけではない。

すぐりの攻撃は、イルネに届いていなかった。

イルネを庇うように、彼女が召喚した化け物…いつかの改造オルトロスが立ちはだかっていた。

そのオルトロスが、すぐりの攻撃を代わりに受けた。

深々とすぐりの糸が突き刺さっているのに、全く痛みなど感じていないかのようで。

それどころか、その鋭い爪で、すぐりを引き裂いた。

「ちっ…!」

咄嗟に身を躱したすぐりだったが、避けきれず、すぐりの血飛沫が宙を舞った。

…嘘だろ。畜生。
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