神殺しのクロノスタシス6
その瞬間に起こったことを、一言で説明するのは難しい。

ナツキ様の言葉は、はったりでも何でもなかった。

バニシンとイルネの体内には、確かに爆弾が埋まっていた。

そして、ナツキ様は実際にその爆弾を起爆した。

それが本当に爆発すれば、ここにいる全員、ただでは済まないはずだった。

…何もしなければ、の話だが。

爆弾が起爆した瞬間、俺達は、あらかじめ決められていたかのように、瞬時に動いた。

まず真っ先に動いたのは、マシュリと、それからイレースだった。

マシュリは瞬時に神竜形態に『変化』し、魔力で作った巨大な火の玉をバニシンに。

イレースが、お得意の超火力雷魔法をイルネに、それぞれぶつけた。

その凄まじい火力で、二人の体内に埋め込まれていた爆弾の威力を相殺した。

それでほとんど爆弾攻撃は無効化したが、勿論、それだけで完全に爆弾の威力を消すことは出来なかった。

しかし、それもまた想定内。

残った爆弾の威力は、ナジュが風魔法で爆風を吹き飛ばすことで相殺した。

爆風を受けた反対側の壁が、あっという間に粉々に消し飛んだ。

同時に、天音が周囲に防御魔法の壁を張って、爆風の余波から仲間達を守った。

ここまでの連携は完璧だった。何の文句のつけようもない。

そして、その間他のメンバーも、何もせずに見ていた訳では無い。

俺達の咄嗟の連携を見て、呆気に取られているナツキ様を。

すぐりが糸魔法で捕らえ、雁字搦めにして床に捻じ伏せた。

その上に令月が取り付いて、残った小太刀の刀身をナツキ様の首筋に当てた。

これで、もうナツキ様は身動ぎ一つ出来ない。

そして、残るは天使達。

「…!?」

「…何故…!」

さすがのハクロとコクロも、この展開は全く予想していなかったらしい。

そりゃそうだろう。同情するよ。

でも、容赦はしない。

敵の隙は、こちらにとって最大のチャンスだ。

「羽久!」

「あぁ、分かってる」

俺は、懐中時計を手に取った。

まずは、ハクロとコクロの動きを止める。

「aegm eimt ptos」

「eeinforcr」

俺が、狼狽えるハクロとコクロの時間を止め。

シルナが、その魔法をより強く強化した。

俺とシルナの、いつもの合わせ技。特別バージョンだ。

これなら、例え相手が大天使であろうとも、一時的に完全に動きを止めることが出来る。

だが、相手は腐っても天使。

俺とシルナの渾身の合わせ技魔法でも、ハクロとコクロの動きを止められるのは一瞬だけだ。

おまけに、俺とシルナがこの時魔法を使っている間、別の魔法を使うことが出来ない。

だから、ハクロとコクロを仕留めようと思ったら、二人の時を止めている間、別の誰かが動かなければならない。

だけど、心配する必要はなかった。

僅か一瞬でも猶予があれば、彼がやってくれる。

今の俺達の、最大の切り札が。

「リューイ!!」

叫ぶように彼の名前を呼んだ時にはもう、リューイは動いていた。

リューイの手には、見たこともない鎌が握られていた。

まるで死神のような、巨大な黒い鎌。

それが、大天使であるリューイが、聖神ルデスから賜った武器だった。

「…聖賢者殿、時魔導師殿」

そのリューイの鎌が、動きを止められたハクロとコクロに迫った。



「…感謝します」



リューイの鎌の一撃が振り下ろされ、強い光が辺りを埋め尽くした。

思わず目を閉じてしまったが。

次に目を開けた時、全てが終わっていた。
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