神殺しのクロノスタシス6
「…っ…」

天音が防御魔法を展開してくれたにも関わらず、凄まじい衝撃。

それでも、この場にいる誰も、命を失った者はいなかった。

爆弾を埋め込まれていた、バニシンとイルネでさえ。

天音の展開した防御魔法が守ったのは、味方だけではなかったのだ。

天音は、バニシンとイルネの二人も守っていた。

操られているとはいえ、あの二人は元々敵なのだ。守る必要はないはずだった。

でも、そうすると思った。天音なら。

体内の爆弾と共に、心臓に巣食っていた『ムシ』もまた、爆発の衝撃で霧のように蒸発していた。

…これで、バニシンとイルネは解放した。

…それから。

「くそっ…!離せ、離せ!お前ら、俺を誰だと思ってる!」

「はいはい、うるさいうるさーい」

「僕は、君が誰でも構わないよ」

子供のように喚くナツキ様を、令月とすぐりは子供をあやすようにあしらっていた。

…全く、どっちが子供だか。

すぐりの糸魔法に雁字搦めにされたナツキ様は、無様に床の上でうごうごと身を捩っていたが。

残念だったな。すぐりの糸魔法は、俺やシルナだって抜け出すのは困難なのだ。

ナツキ様に逃れられるはずがなかった。

ましてや、令月の小太刀に見張られている状態で。

…それから。

「…ありがとうな、マシュリ。イレース。…ナジュも」

「上手く行って良かったよ」

「この程度、上手く行って当たり前です」

「いやぁ、皆さん惚れ惚れするようなナイスコンビネーションでしたね」

マシュリは安心したように、イレースは当然のように、ナジュは感心したように、それぞれ言った。

…全くだよ。

皆、分かってたんだな。

…シルナが、本当に仲間を見捨てる選択をするはずがないってことを。

「…シルナ…」

「…うん」

シルナもまた、心から安心したように頷いた。

信じてはいた。信じてはいたけど…心の何処かで不安だった。

俺は、シルナが演技をしていることをすぐに見抜いていた。

シルナが本気で、仲間を見捨てる訳がない。ハクロとコクロを油断させる為の演技だって、すぐに分かった。

読心魔法で瞬時にシルナの本心を見抜いたナジュも、同じく迫真の演技を披露して。

さも、シルナが本気で仲間を見捨てることを選んだかのように見せた。

不安だったのは、俺とナジュ以外の仲間達だった。

あの状況で、読心魔法を使えない彼らが、果たしてシルナの演技に気づいてくれるだろうか。

こればかりは、各人のシルナに対する信頼を信じるしかなかった。

だけど、その不安は杞憂に終わった。

皆、ちゃんとシルナを信じてくれた。

あれがシルナの演技だと気づいて、ナツキ様が爆弾を起爆すると同時に、皆流れるような連係を見せた。

あらかじめ、そうすることを示し合わせていたかのように。

全ては、俺達の仲間としての信頼関係の上に為せる技だった。

それが全部、綺麗に成功したのだ。

強い達成感と共に、無類の喜びを感じていた。

俺でさえそうなのだから、シルナの喜びは、きっと俺を遥かに上回っているだろう。
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