神殺しのクロノスタシス6

羽久side

――――――…その時、俺は呑気に自分の部屋で就寝中だった。

後になって、自分の能天気を呪ったものだった。

散々シルナや仲間達のことを、能天気だと心の中で罵ったものだが。

自分も、負けないくらい能天気だったのだ。

 


…ふと、夜の冷気を感じた。

外の冷たい風が顔に当たって、俺はぼんやりと薄目を開けた。

…あれ…。

視線の先の窓が、何故か全開になっていた。

寝起きの頭で、しばし開け放たれた窓を眺め。

あれ、俺窓開けっ放しのまま寝てたっけなぁ…と考え。

そんなはずがないと思い当たって、背中に冷たいものを感じて飛び起きた。

まさか、賊が侵入してきたのでは。

しかし、そこにいたのは賊ではなかった。

「れ、令月…?」

「…」

元暗殺者組の生徒、令月だった。

彼らのいつもの仕事着である黒装束を身に着けて、非常に険しい顔をして立っていた。

…な、何で令月がここに?

「お、お前…。今、何時だと思ってるんだ…?」

外は真っ暗。生徒達は学生寮で眠っていなければならない時間だ。

当たり前のように門限を無視して、今夜も深夜のパトロールとやらに出ていたのだろう。

なんべん言ってもお前は。いや、お前らは。

令月が外に出ているということは、当然令月の相棒…すぐりも、同じように外出してるんだろう。

…で、すぐりは何処だ?姿が見えないが。

つーか、何で窓から入ってきたんだ。どうやって?

窓、鍵かかってただろ。

いや、そんなことより。

「何なんだ?こんな時間に。俺の寝首を掻きに来たのか…?」

「そうだったら良かったんだけどね。そうじゃないんだ」

良くねーよ。全然。

元『アメノミコト』の暗殺者に寝首を掻かれたら、ひとたまりもない。

令月が「その気」だったら、俺は今頃眠ったまま喉を掻き斬られて、寝ながらあの世行きだったぞ。

「じゃあ、何なんだ…?」

人様が眠ってる時間に、こっそり忍び込んで起こすくらいなんだから。

そりゃもう、大層重大なことが…、

…しかし、それは重大どころではなかったのだ。

「…」

令月は後ろめたそうな顔をして、しばし逡巡した。

…え?

令月と言えば、いつもなら、大人達が気を遣って沈黙している時でも。

容赦なく、思ったことをズバッとはっきり言う奴なのに。

そんな令月が口にするのを躊躇うのだから、これは只事では、

「…落ち着いて聞いてね」

沈黙を破った令月は、最初にそう前置きした。

な、何なんだ?そう言われると余計に…。

「…マシュリが死んだ」

「…え…」

小さな声で、しかしはっきりと、令月はそう言った。

そのシンプルな一言の意味が分からず、俺は口をぽかんと開けて固まってしまった。
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