神殺しのクロノスタシス6
第20章
…不思議な光景だった。

ラッパを吹いているはずなのに、辺りには何の音も聞こえない。

まるで、壊れたラッパを吹いているよう。

けれど、俺達の耳に聞こえないだけで、確かにそのラッパは鳴り響いていた。

「…っ!この、裏切り者…!」

「ラッパを返しなさい!」

俺とシルナの合わせ技でも、やはり数秒以上の時は止められなかった。

ハクロとコクロは、すぐにリューイに飛びついて、ラッパを取り返そう…としたが。

全ては、既に決していた。





「…そこまでです。止まりなさい」

ハクロとコクロが、リューイからラッパを取り戻す前に。

小柄な、髪の長い女性が、二人の天使の前に悠然と立ちはだかった。

その女性が何者か、何処から来たのか、聞くまでもなかった。

彼女の背中には、まばゆいばかりの大きな天使の羽根が生えていたから。

「智天使…ケルビム様…」

ようやく、自らの主人と再会したリューイが、その女性の名前を呟いた。

…そうか。やっぱり。

この人が…リューイのご主人様。智天使ケルビムなんだな。
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