神殺しのクロノスタシス6
あの馬鹿は、寒かろうと年末だろうと、大人しくしているということを知らないらしい。

いつも通りで何より。

って、安心してる場合かよ。

「あいつ…今度は何処で何をしてるんだ?」

俺がちょっと目を離したらこれだよ。

どうしたら良いの?あいつ。いっそもう、毎日幼稚園に預けようかな。

精神年齢年長さんくらいだし、案外行けるんじゃね?

「そ、それが…聖魔騎士団隊舎の庭で…」

「落とし穴でも掘ってるのか?」

「…鍬を振るってます」

冗談のつもりで言ったのに、あながち間違ってなかったことにびっくり。

一体何をやってんだあいつは。

イーニシュフェルト魔導学院の暗殺者みたいに、畑でも耕してんのか?

とにかく、何にせよ、止めなくては。

「分かった。ちょっと…止めてくる」

「お、お願いします」

こうして、今日も俺の仕事は邪魔されるんだな。

マジでもう。ベリクリーデのお世話代を給料に入れてくれないと割に合わないぞ。

俺は執務室を出て、聖魔騎士団隊舎の裏庭に向かった。

すると、そこにいた。

「よいしょー。よいしょー」

ドスッ、ドスッ、と地面に鍬を突き刺しているベリクリーデと。

そんなベリクリーデを、心配そうな顔で遠巻きに見つめる数人の聖魔騎士が。

彼らもきっと、これは絶対ヤバいと感じているに違いないが。

一応ベリクリーデは魔導部隊大隊長の一人であって、彼らにとっては上司に当たる。

だからこそ、突っ込みたくても下手に突っ込めないのだろう。可哀想に。

その役目は俺がやるから。

「大丈夫だ。俺が何とかする」

「じゅ、ジュリス隊長…」

「良いから。任せてくれ」

そう言うと、ベリクリーデを心配して遠巻きに眺めていた聖魔騎士達は、安心したようにこの場を去っていった。

ふぅ。やれやれ。

…それじゃ、改めて。

「ざっくざっくー。ざっくざくー」

「こら、ベリクリーデ!」

「ひゃうっ」

後ろからベリクリーデを呼ぶと、奴は鍬を振り上げたまま、びくっとして固まった。

「…ジュリスの声だ。ジュリスの声が聞こえたよ」

「そりゃ、お前の後ろにいるからな」 

「…と思ったけど、きっと気の所為だね。よし。続きを耕そー」

「こら!気の所為にするんじゃない」

ガシッ、とベリクリーデの肩を掴んだ。

よし。捕まえたぞ。現行犯逮捕。

もう逃さんからな。言い逃れも出来んぞ。

「ふぇ?ジュリスどうしたの?」

「どうしたの、はこっちの台詞だ。お前こそ何をやってる」

何処の誰が、隊舎の裏庭を畑にして良いと言った?

とんでもないことである。
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