神殺しのクロノスタシス6
そうか。おせち、美味しいもんな。

作るのは大変だけど、あれを食べなきゃお正月って気がしない。

最近は、食料品店で簡単に、出来合いのおせちが手に入るけど。

やっぱり、家庭で作ると、家庭の美味しさがあるよな。
 
是非とも子供達に継承したい、おふくろの味って言うか。

だから、作りたくなる気持ちは、まぁ分からなくもない。

しかし、ベリクリーデは何か大きな勘違いをしている。

「…知ってるか、ベリクリーデ。おせちって食べ物なんだぞ」

「ほぇ?」
 
「だからな、庭じゃなくてキッチンで作るものなんだ」 

お前は畑を耕して、一体何処から作り始めるつもりだ?

金時人参やゴボウや黒豆を、イチから作るつもりなのか。

今から作り始めて、食べられるのは一体何年後の正月になることか。

そこまでしなくても。今は便利な時代なんだから。

材料くらい、スーパーで買ってきて作れば良いじゃん。

普通に売ってるだろ。何なら完成形をそのまま買ってきて食べても良し。

それなのに、ベリクリーデは。

「そうだよ。おせちは食べ物だよ?」

そのくらい知ってる、と言わんばかり。

は?いや分かってないじゃん。

「畑でイチから野菜を作るつもりか…?」

趣味なの?家庭菜園。

それは良い趣味だと思うけど、やるなら隊舎の庭じゃなくて。

市民農園とか借りて作れよ。誰が公共の場を勝手に畑にしてるんだ。

シュニィに言いつけるぞ。…冗談だけど。

「?ううん。おせち作ってるんだよ?」

「え?いや…。野菜…」

「…?…??」

「…」

…何だろう。ごめん。

絶望的に、話が噛み合ってない気がする。

俺が何かを誤解しているのか、それともやっぱりベリクリーデが誤解してるのか?

「…一応聞いておくが、今は何のおせち料理を作ってるんだ?」

俺は、質問の仕方を変えてみることにした。

ほら、おせち料理ってさ、地方によって結構味付けとか、使う材料とか、違ってくるじゃん?

何なら家庭によっても様々。

だからもしかしたら、ベリクリーデの実家(?)では、畑で作れる謎のおせち料理があったのかもしれない。

世界は広いし、文化は多様だからな。そういうこともあるかもしれないじゃないか。

そこで、念の為に尋ねてみた訳だ。

するとベリクリーデは、相変わらずのドヤ顔で答えた。

「あのね、たつくり、って言うの」

「…は?たつくり?」

「おせち料理なんだよ」

ドヤ。
 
…たつくり…たつくり…。

…それってもしかして…田作りのこと?

その瞬間俺は、ベリクリーデが一体何をどういう誤解をしているのか理解した。
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