神殺しのクロノスタシス6
令月と共に、俺は「現場」である園芸部の畑に向かった。

外はまだ暗かったが、夜明けが近いのか、少しずつ朝の気配が漂っていた。

でも、そんなことはどうでも良かった。

何かの間違いであって欲しい、と心の底から願いながら、現場に向かった。

校舎裏にある畑までの距離を、これほど遠く感じたことはなかった。

現場に辿り着くと、既にそこに、イレースと天音、それからナジュが先に駆けつけていた。

多分、すぐりに呼ばれて来たのだろう。

そして、そこに立ち尽くす彼らの表情を見て、全て間違いであって欲しいという俺の願いは、砕けて消えた。

イレースとナジュは、非常に硬い表情で「それ」を見下ろしていた。

天音はその場に膝をついて、肩を震わせて嗚咽を漏らしていた。

3人の視線の先にあるのは、真っ赤に染まった…。

「…マシュリ…」

俺も「それ」を見つけて、思わずその場に立ち尽くした。

まるで、地面に釘付けにされたかのように。

銀色の剣が7本、マシュリの身体に突き刺さっていた。

身体から力が抜けて、俺もその場に膝をついてしまった。

天音のように、涙は出てこなかった。

ただ、何も考えられなかった。全部夢の中の出来事みたいだった。

夢じゃない。現実だって分かっているのに。

脳みそが、目の前の状況を現実だと認めたくないのだ。

だって、そうだろう?

何でマシュリがこんな目に?何でマシュリが…。

…こんな風に、何も言わずに一人で…先に逝かなければならないんだ?

有り得ないだろう、そんなこと…。

…地面に膝をついたまま、しばしそのまま放心していると。

「…羽久…!」

聞き覚えのある声がして、俺は魂が抜けた状態のまま振り向いた。

するとそこには、すぐりに伴われ、血相を変えたシルナが駆け付けてきた。

…あぁ、シルナ…。

「す、すぐり君に呼ばれて。一体、何が…」

「…これですよ」

ナジュが、手振りで示した。

目の前にある、マシュリの亡骸を。

「…!」

「それ」を見た途端、シルナはその場に立ち尽くし、言葉を失った。

…そうなるよな。分かるよ。

俺なんか、膝から力が抜けて立ち上がることも出来ない。

夢なら覚めてくれてよ、ってずっと思ってる。

夢じゃないってこと、分かってるはずなのにな。

「…マシュリ君…」

シルナは、既に息をしていないマシュリの名前を呼んだ。

俺だけじゃない。
 
この場にいる全員、第一発見者である令月とすぐりにとって。

イレースにとって、ナジュにとって、天音にとって、シルナにとって。

そして、このルーデュニア聖王国にとって。

「それ」は、これから俺達に訪れる、長い悪夢の始まりだったのだ。
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