神殺しのクロノスタシス6
「ごめんね。でもルイーシュ君は、空間魔法のプロだから…。異界である冥界に行くには、一緒についてきてくれると心強いんだよ」

シルナがルイーシュを選んだ理由は、この点である。

「空間魔法に詳しいって言っても、さすがに冥界のことは分かりませんよ、僕には」

「大丈夫だよ。単純に戦力としても、ルイーシュ君なら全く申し分ないからね」

同意。

ルイーシュの実力は、俺もよく知るところ。

そして、ルイーシュが本当に真価を発揮するのは…。

「それで…ルイーシュ君がメンバーに加わるなら、一緒に…」

「…何?俺、ルイーシュの付属品感覚?」

視線を向けられたキュレムが、無表情に呟いた。

キュレムが付属品だとしたら、超強力な付属品だな。

「君も一緒に来てくれると、物凄く心強いんだけどな」

「ほぼルイーシュの世話係だろ?」

「え、えぇっと…」

「良いよ、別に。冥界でも地獄の一丁目でも。ルイーシュのいない現世で生きるよりはマシだろ」

…頼もしい言葉をどうも。

基本的に遠征チームは、二人一組を一つの行動単位として考えている。

この条件で言えば、キュレムとルイーシュは完璧だな。全く隙がない。

それから…。

「俺も行きます」

自ら、危険な冥界への遠征に立候補してくれたのは。

「吐月…」

この中で唯一の召喚魔導師、吐月であった。

状況が状況だから、自ら立候補してくれるのは大変有り難い。

「恐らくこの中で俺が一番、冥界に『適応』出来るはずです。ベルフェゴールの力を借りれば…」
 
「ありがとう、吐月君…。だけど、君はやめた方が良いと思うんだ」

有り難い申し出…ではあったが。

シルナは、丁重にその申し出を退けた。

「…!どうしてですか?」

「君の実力を疑ってるんじゃないよ。勿論…。私達より遥かに、冥界について詳しいしね」

そういう意味では、吐月の同行を断るのは非常に惜しいのだ。

正直、俺としては吐月に一緒に来て欲しい。

だが、そうは行かない理由があるのだ。

「でも…君の血、君の魔力は…魔物にとって魅力的過ぎる。恐らく、格好の餌にされてしまうんじゃないかな」

「…!それは…」

吐月の血や魔力は、魔物にとって極上の蜜のようなもの。

人間である俺には、さっぱり分からない感覚だが。

吐月のように魔物と相性の良い魔力の持ち主は、最高に美味しそうな餌に見えてしまうらしい。

早い話が、吐月を冥界に連れて行くと、さながら魔物ホイホイになってしまう訳だ。

出来れば俺達は、魔物との交戦は避け、正体を隠して、こっそりと空き巣のように竜の祠を探したいと思っている。

竜の祠から封印されている心臓を盗み出そうとしているのだから、実際空き巣である。

しかし吐月を連れて行けば、吐月という「餌」に釣られて、たくさんの魔物が寄ってきかねない。

そうなると…こっそり空き巣をするには、目立ち過ぎてしまうのだ。

それが、吐月を連れて行けない一つ目の理由だ。
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