神殺しのクロノスタシス6
「下位の魔物ならともかく、中位以上の魔物に狙われると、どうしても目立ってしまうから…」

「…そ、う…ですね」

…特に、覚えがあるだろう?吐月には。

彼の脳裏には今、長年自分を苦しめ続けてきた魔物の姿が思い浮かんでいることだろう。

…そう。またあんな風に、魔物に目をつけられたら困る。

今はベルフェゴールと契約しているとはいえ、魔物にとって吐月が美味しい「餌」である事実は変わらないのだから。

…それよりも。

「それにね、吐月君。君には他に、やってもらいたいことがあるんだ」

「やってもらいたいこと…ですか?」

「冥界への『門』を開けて欲しいんだ。これは…君にしか出来ないことだから」

「…!」

通常、冥界と現世を繋ぐ『門』を開けられるのは、魔物だけらしい。

その為、人間が『門』を開くには、魔物と契約した召喚魔導師の力が必要なのだ。

だからこの仕事は、吐月にしか出来ない。

「私達が冥界で竜の祠を探している間、『門』を開いていて欲しい。もし私達が冥界にいる間に『門』が閉じてしまったら、私達は永遠に、冥界に取り残されてしまうことになるからね」

シルナは冗談めかして笑ったが、本当は笑い事ではない。

本当に『門』が閉ざされてしまったら、例えマシュリの心臓を取り返したとしても、冥界に置き去りにされるんだぞ。

そのまま、再び『門』が開くまで、永遠に冥界に閉じ込められたまま…。

…うぅ。想像するだけで寒気がするな。

冥界と現世を繋ぐ『門』の維持は、今回の遠征に必要不可欠である。

「それから、他の大隊長達にも、同じく『門』の維持を手伝って欲しいんだ。頼めるかな?」

シルナは、この場にいる魔導部隊の大隊長達…。

クュルナや無闇や、エリュティアに向かってそう頼んだ。

『門』の開閉には、相当の魔力と体力を使うらしい。

吐月一人だけで『門』を維持するのは、荷が重い。

手伝う人間が必要だ。俺達の帰り道を保証してもらう為にも。

「それに…『門』が開けば、魔物が釣られて現世に誘き寄せられるかもしれない。そういう魔物から身を守る為にも…」

「…分かりました。出来れば、私も冥界への遠征に加わりたかったところですが…。そういうことなら、吐月さんのお手伝いをしましょう」

クュルナが頷いて答えた。

ありがとう。非常に助かる。

「済みません…。冥界でも探索魔法が使えれば、竜の祠を探すのに役に立てたかもしれないのに…」

エリュティアは、申し訳無さそうに謝った。

捜し物をするには、エリュティアの力を借りるのが一番だったからな。

しかし、冥界ではエリュティアの探索魔法は通用しない。今回は彼には頼れない。

それは仕方のないことで、エリュティアの責任ではない。

「いつも捜し物と言えば、お前を頼ってばかりだからな…。たまには自分達の足と目で探すよ。ありがとうな」

「羽久さん…」

「ここで、吐月を守ってやってくれ。頼む」

「…はい、分かりました」

探索魔法を抜きにしても、エリュティアの実力は折り紙付きだからな。

クュルナと共に、吐月と、俺達が帰る『門』を守ってやって欲しい。
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