神殺しのクロノスタシス6
すると。

これまで沈黙を守っていた無闇が、口を開いた。

「『門』を守る役目を引き受けるのは構わない。が…遠征のメンバーはどうするつもりだ?他に誰が冥界に行くのか…もう決まってるのか」

…あぁ、そういやそれを話してなかったな。

キュレム、ルイーシュペア以外の遠征メンバーについては、既にイーニシュフェルト魔導学院サイドで話をつけてある。

「決まってるよ。俺とシルナ、天音とナジュ、それから令月とすぐりの三組だ」

まぁ、いつものメンバーってところだな。

そして、これが一番不安のない人選である。

「イレースさんは?」

「イレースちゃんはお休みだよ。…さすがに、学院に一人も教師が残ってないと不味いからね」

二人一組の原則を守ろうと思ったら、人数的に、どうしても一人余ってしまうからな。

それにシルナの言う通り、学院に一人も教師が残ってないのは不味い。

などの諸々の事情を鑑みて、イレースが一人、学院に残ることになった。

「…ごめんな、イレース。また留守番…」

「構いませんよ、私は。むしろ、乱れに乱れた学院の風紀を正す、絶好の機会です」

えっ。

「あなた方がいない間に、学院の風紀を厳しく取り締まるとしましょう。当分帰ってこなくて良いですよ」

…やべぇ。

俺とシルナは、揃って顔を見合わせた。

シルナなんて、既に青ざめている。

俺達が冥界から帰ってきた暁には、生徒達が軍隊式に、敬礼して挨拶をするようになっているかもしれない。

…よし。くれぐれも早く帰ってこよう。何なら半日、いや、数時間くらいで帰ってこようぜ。

「ということは、学院組とキュレムとルイーシュを合わせて、計四組…。8人で遠征に行くということか?」

と、尋ねる無闇。

いや。

実は、もう一組…あと二人、遠征メンバーに加わってもらうつもりでいるのだ。

そのメンバーというのは。

「…えぇと、ジュリス君」

「…」

残るもう一組のメンバーのうち、片方に声をかけると。

部屋の隅の方で、黙って腕組みをして事の成り行きを見守っていたジュリスが、苦い顔を上げた。

…何だか、非常に申し訳ない。

「…えーと…ジュリス君、ちょっと良いかな…」

これには、シルナもたじたじ。

「…何だよ?」

「え、えっと…。もし良ければ…なんだけど」

「まさか、俺にも遠征メンバーに加われ、って言うんじゃないだろうな?」

…そのまさかである。

「…頼めないかな?」

「…はぁ…」

その大きな溜め息よ。

申し訳なくなってくるな。…非常に。

「…まぁ、お鉢が回ってくるじゃないかとは思ってたよ…」

だろうな。

ジュリスはこの中で、シルナの次に人生経験が豊富だからな。

聖戦の時代を生き抜いてきたこともあって、いかなる状況でも瞬時に対処出来る、高い適応力がある。

何が起こるか分からない冥界に、一緒に行ってもらうには最高の人材なのである。

…というとはまぁ、俺達の勝手なのだが。
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