神殺しのクロノスタシス6
唐突に聞こえたその声を、僕は知っていた。

忘れるはずがない。この声は。

僕にとって、最も大切な…。

「…スクルト…」

「…マシュリ」

これは夢なのだろうか。

僕の身勝手な願望が生み出した、幻なのだろうか。

それとも、やはりここはあの世なのだろうか。

…何でも良い。大事なのは、目の前に彼女が…スクルトがいるということだ。

…あぁ。

「…」

再会したら、言うべきことがたくさんあると思っていたのに。

いざ彼女を前にすると、僕は言葉が出てこなかった。

どの面下げて、再びスクルトと相対することが出来るだろうか。

彼女には何の罪もなかった。罪深いのは僕だけだ。罪を背負うべきなのは僕だけだったのに。

僕の罪のせいで、スクルトは死んだ。

僕が殺したのだ。

何よりも…誰よりも優しくて、大切な人だったのに…。

ありとあらゆる罵詈雑言、恨み節をぶつけられる覚悟があった。むしろ、彼女はそうするべきだった。

理不尽に命を奪われたのだから、当然の権利だった。

…それなのに。

スクルトの眼差し、表情、声音、その全てに一切の憎しみはなかった。

ただ、口元に優しい微笑みを浮かべていた。

…何で。

僕に命を奪われたのに…。憎んで当然なのに…。

何で、そんなに優しい顔をしていられるんだ。

「…スクルト…。…ごめんね」

「どうして謝るの?」

…どうしてって…。それは…。

「君の命を…未来を…奪ってしまったから」

「そう」

「それから…それから、君が…僕の為に未来を犠牲にしてくれたのに、僕は…君の守ってくれた未来を…こんな風に、無駄にしてしまった」

スクルトが命を懸けて、僕の未来を守ってくれたのに。

僕は…結局何も出来なかった。何も出来ず…何も為せず、何も残せずに、無様に死んでしまった。

スクルトが守ってくれた、未来の末路がこれだ。

…申し訳が立たない。合わせる顔がない。

こんな下らない結末を迎える為に…犠牲になってくれたんじゃない。

「…ごめん…」

謝っても、謝り切れなかった。

…それなのに、スクルトは小さく首を横に振った。

「あなたは何も悪くない。私は、自分の選択を後悔していないわ」

「…でも…」

「それにね、マシュリ。…あなたの未来は、まだ潰えていないわ」

…え?

「あなたの仲間達は、まだあなたを諦めていない。…見てご覧なさい。あなたを奪われた彼らが、今あなたの為に、『何に』挑もうとしているかを」

そう言って、スクルトは指を差した。

彼女が指差すその先に…僕が残してきた、仲間達の姿があった。

…当の僕が、既に生きることを諦めているというのに。

彼らの目は、まだ何も諦めていない。

大きな試練に挑もうとする、挑戦者のそれだった。
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