神殺しのクロノスタシス6
「シルナ…。シルナ!」

何度も呼びかけたが、返事はなかった。

…駄目だ。いない…。

最後に、シルナの顔を見た時。

冥界の『門』を潜った、あの時…俺とシルナは相反する引力に引かれて、反対の方向に飛ばされた。

そのせいで、俺とシルナはバラバラに…離れ離れになってしまったのだ。

…恐れていたことが起きた。

単独行動は危険だからって、二人一組のペアを決めたのに。

これじゃあ、全く意味がない。

むしろ裏目に出ている。

まさか、冥界に足を踏み入れるなり、仲間達とは全く別の方向に飛ばされるなんて思ってもみなかった。

俺とシルナが離れ離れになってるってことは…もしかしたら、他のメンバーも同じように…。

…非常に不味い事態だ。

冥界に来て一分足らずで、早速大ピンチ。

シルナは無事だろうか?この近くにいるのだろうか。

シルナだけじゃない、他のメンバーはどうしているだろう?

無事に冥界に辿り着けたのだろうか。ちゃんとペアの相手と一緒にいるのか?

「…!」

冥界に対する恐怖心より、仲間の姿が見えないこと、安否が分からないことに、俺は強い焦燥感を覚えた。

誰でも良い。一緒に来た仲間の誰かと合流しようと、仲間の姿を探して走り出そう…と、したその時。

あまりに焦っていたせいで、足元を全然見ていなかった。

「うわっ!!」

「…ほえっ…」

走り出した一歩目で、崩れた瓦礫か何かに足を取られ。

「ぐはっ…!」

そのまま、勢いよく前のめりに転倒。

瓦礫に鼻を思いっきりぶつけて、目の前に火花が散った。

多分、漫画みたいな転け方だったと思う。

「い…いたた…」

のろのろと身体を起こし、熱いものが込み上げる鼻を押さえて、後ろを振り向く。

しかし、次の瞬間には、転んだ痛みのことなんて忘れていた。

振り向いた先に、見慣れた人物がうつ伏せに倒れていたからである。

そこにいたのは、一緒に冥界に来た仲間の一人一…。

「べ…ベリクリーデ…!?」

「…」

ジュリスと一緒に来たはずのベリクリーデが、瓦礫の影に隠れるように倒れていた。

瓦礫に躓いたんだと思ったが、どうやら俺は、ベリクリーデに躓いたらしい。

ごめん。焦りと瓦礫に足を取られて、全然気づかなかった。

「ベリクリーデ、ベリクリーデ、しっかりしろ!」

俺は鼻を押さえたまま、ベリクリーデの傍らにしゃがみ込んだ。

ベリクリーデの身体を強く揺すったが。

「…」

ベリクリーデは無反応で、ぴくりとも動かなかった。

俺の背中に、冷たいものが流れた。

…ま、まさか…ベリクリーデ…。

「嘘だろ、おい。しっかりしろ、ベリクリーデ。起きるんだ。お前はこんなところで…!」

終わって良い命じゃないはずだ、と再度強くベリクリーデを揺さぶった。

だが、それでもベリクリーデは目を覚まさない。

どうすれば良いんだ。

俺はベリクリーデの身体を抱き起こし、顔を覗き込んだ。

ベリクリーデの身に何があっ、

「…zzz…」

「…」

「…zzz…。…むにゃむにゃ…」

…なぁ。

俺、もしかして凄く…間抜けな誤解をしていたのでは?
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