神殺しのクロノスタシス6
ベリクリーデの容態を確認しようと、抱き起こしてみたら。

凄く間抜けそうな…ベリクリーデの…。

…寝息、らしきものが聞こえてきたんだけど。

これって気の所為なのかなぁ。

気の所為じゃないよなぁ。…多分…。

「…なぁ、ベリクリーデ。起きろ」

俺は、もう一度ベリクリーデを揺すってみた。

しかし、寝ぼけ娘は目を覚まさない。

「ふにゃ…。むにゃむにゃ…。じゅりす〜…そこはらめ〜…」

寝息のみならず、寝言まで。

なんつー夢を見てるんだ?ジュリスへの風評被害やめろ。

「俺はジュリスじゃない。良いから起きろって。こんなところで寝るな!」

耳元でそう叫ぶと、突然。

全く起きる気配のなかったベリクリーデが、ぱちっと目を開けた。

お、おぉ。

あまりに突然起きたものだから、起こした本人である俺もびっくりしてしまった。

「…?ジュリス…?」

きょとん、と首を傾げるベリクリーデ。

「…悪いな。俺はジュリスじゃない」

ジュリスだったら良かったんだけどな。

「…ジュリスじゃない…」

「そうだ。俺の名前知ってるよな?羽久だ。羽久・グラスフィア…」

「…羽久…」

ベリクリーデは俺の名前を復唱して、ぽやんとした表情でこちらを見つめていた。

…寝起き一発目に俺の顔で、本当ごめんな。

ベリクリーデだって、俺じゃなくてジュリスが良かっただろうに。

でも、仲間の一人に会えて良かった。

「無事で良かった。安心したよ、ベリクリーデ…」

一人じゃないことの頼もしさ。心強さよ。

「…羽久…。…ジュリスは?」

ごめんな。答えてあげられたら良かったんだけど…。

「分からない。俺もシルナと離れ離れになってるんだ…」

「そっか…」

「ベリクリーデも、ジュリスとは別の場所に飛ばされたんだな…」

「うん。一緒だったはずなのに」

分かるよ。俺とシルナもそうだったから。

ってことは、少なくとも俺とシルナ、ジュリスとベリクリーデの二組は、既にペア崩壊してることになるな。

初っ端からこれか…。心折れそうだな。

でも、ベリクリーデだけでも見つけられて良かった。

少なくとも、単独行動はせずに済む。

こうなったからには…臨機応変に考えなければならないだろう。

「ベリクリーデ。提案なんだが…」

「ジュリス、元気かな…」

うん。心配なのは分かるけど、俺の話を聞いてくれ。

「多分、この近くに俺達の相棒はいない。シルナもジュリスも、『門』を潜った時にはぐれてしまったみたいだ」

「うん」

「そこで、なんだが…。お互いの相棒が見つかるまで、俺達で組まないか?」

何の運命の悪戯か、お互い、相棒とは違う相手と同じ場所に飛ばされてしまった。

だったら、単独行動を取るよりは、現地で即席のペアを作る方が良いだろう。

「組む?…羽久と?」

「あぁ。即席のペアだが…。一人で行動するよりはマシだと思うんだ」

「…そっかー…」

「お互いの相棒が見つかるまで。一緒に協力して欲しい。どうだ?」

「うーん。良いよ」

意外とあっさり。

ジュリスじゃないと嫌、って言われたらどうしようかと思った。
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