失恋したら、別の幸せが待っていました!~憧れの部長と溺愛婚
「じゃあ、ここで。樋川、また連絡する。今日はゆっくり休めよ」

「ありがとうございます」

 駅の改札口で私たちは別れた。私はまだ鳴り止まないドキドキを落ち着かせるように歩き出す。昨日は酔っていて気付かなかったのだが、いざ最寄り駅に着くと部長と私は同じ沿線だったみたいだ。偶然すぎて驚く。部長は遅くまで働いているため、帰りも一緒にはならないし、私よりも出勤も早いために出会ったことはない。

 元彼の翔とは住んでる場所も離れていたので、部長と付き合うことになったら行き来も楽だな、なんて考えてしまう。まだ、決まったわけではないのに――


 昨晩、メッセージアプリに部長からのスタンプが届いた。それは勤務先の企業が配布している可愛らしいおやすみスタンプだった。私も『ご迷惑おかけしまして申しわけございませんでした。お世話になり、ありがとうございました。おやすみなさい』と返信したが、部長からは『気にするな。おやすみ』とだけ返ってきた。部長とこんなやり取りをしたのは初めてなので、くすぐったい。
翌日は体調不良で休んだことになっていた私の元へ同僚や営業の方々が見舞いの言葉をかけてくれたが、三島さんだけは何もなかった。いつも通りの罵詈雑言、叱責。

「まぁ、まぁ、三島。落ち着いて! 樋川も三島に書類を提出する前に私が確認すると言ったでしょ?」

「はい、すみませんでした」

 確認してもらおうとしたが、三島さんがそれじゃ間に合わないと言い出して、そのまま提出した。こんな毎日の繰り返しで、自分の出来なさにうんざりする。いっそのこと、退職しようか? 離職届ならば、いつ退職しても良いように総務課から移動になった時から既に書いてある。あとは日付を入れて提出するだけだ。

 もうそろそろ、心身ともに限界がきそう。翔にも婚約者が居るからと別れを切り出されたこととか、婚約者が妊娠していることも一気に思い出してしまい虚しくなる。私はそんなにも駄目人間なのだろうか?

 頬を伝ってポロポロと涙もこぼれ落ちてしまい、私は営業部を飛び出した。その時、追いかけてくれたのは部長だった。
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