失恋したら、別の幸せが待っていました!~憧れの部長と溺愛婚
「ごめん、仕事行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい。夜はご飯作って待ってますね」

「楽しみにしてる」

 私は乱れた部屋着のまま、大和さんに近寄り、ネクタイを直す。

「コッチの続きも後でね」と言って、右胸の上を指でぷにっと押された。見送りをしたくて乱れたままの服で駆け寄ったことを後悔する。

 私ってば、恥ずかしい奴だ。

「あ、そうだ。ほら、美月」

 恥ずかしくてベッドに戻ろうとした私に大和さんが何かを投げて来た。

「鍵、よろしく」

「はいっ」

「良い返事。じゃあね、今度こそ行って来ます」

「行ってらっしゃい」

 二度目の行ってらっしゃいをして、手を振って見送る。大和さんのマンションの鍵を預かるのは特別なことでいつも嬉しすぎて、その度に鍵を持ち上げては眺めてしまう。

 元彼の翔の鍵は預かったことはなかったし、鍵を預かったのは大和さんが初めてで、ついついはしゃいでしまう。

 先日、水族館デートした時にお揃いで購入したイニシャルキーホルダーが付けてあるし、ヤバい、顔がほころんでしまっている。

「忘れ物し……、っぷ、何してるの? 美月?」

 ドアが開く音がしたと思ったら、大和さんが忘れ物を取りにベッドルームに戻って来た。ビックリして手を離してしまい、ベッドの下に鍵が落下した。

「嬉しくて……眺めてました」

「鍵が?」

「はい、鍵を預かったのが嬉しくて……」

「初めてじゃないでしょ? でも今度、合鍵作るよ」

 ヨシヨシ、と私の頭を撫でてから大和さんは再び出かけた。大和さんの温もりがある内に私も出かける準備をする。私は幸せを噛み締めながら、マンションの部屋の鍵を締めて、駅まで向かった――
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