一人称おじの部長は、ひたむきな部下を溺愛する
葛城さんの家に入れば、昨日のハウスキーパーさんが出迎えてくれた。
ぺこりと今日も、丁寧にお辞儀をされる。
「ごはん、召し上がられますか?」
「えっと」
「晴樹さんも待ってるので、ぜひ一緒に」
「あ、じゃあお願いします」
ここに来る前に取ってきた服や生活品を、借りてる部屋に置く。
そして、リビングに向かえば、甚平を着た葛城さんと目が合う。
じ、甚平……?
「吉川さん、今日は、早く帰ってきたんだね」
「毎日毎日遅いと、いいアイディアも浮かばないですから」
いつだったか、葛城さんが部署全体に伝えていた言葉を、口にする。
葛城さんは覚えていたのか、唇を緩めた。
「やっぱり、吉川さんはいいね」
「いい、ですか?」
「うん、素直でなんでも吸収して、自分に適応する。目を掛けてたんだ」
憧れの人からの言葉に、胸が強く跳ね上がる。
どくん、どくんと震える心臓を押さえて、食卓に付いた。
まるで普通のように振る舞いながら、用意されたごはんに手をつける。
「葛城さんにそう言われると、嬉しいです」
小声で口にすれば、葛城さんは目を丸くする。
小さく「どうして?」と問われて、素直に答えるか悩む。
それでも、勇気を出して、口を開いた。
「葛城さんのスポーツ飲料のCMに憧れて、この会社に入ったんです私」
「あれ、か、恥ずかしいな」
「私の背中をぐっと押してくれたんです、あのCMが」
葛城さんは、持っていた箸を置いて、長いまつ毛を、伏せる。
そして、本当に恥ずかしそうに、耳まで赤く染め上げた。
「まだ、右も左も分からない新人時代の仕事だよ」
「でも、本当に好きなんです」
葛城さんがパッと顔を上げて、私を見てから、目を逸らした。
「勘違いするから、ちゃんと主語をつけなさい」
葛城さんの言葉に、言いたいことがわかって手に持っていた箸を落としそうになった。
慌ててしっかり掴んだけど、何を言っていいかわからない。
頭が真っ白で、体全身が、バクバク言ってる。
「吉川さん」
甘い声に聞こえて、昨日の当真が、瑠美が過ぎる。
「別れたばっかりなのに、って感じですよね!」
好き、とかではない。
いや、好きなんだけど。
今の言い方、本当に好きみたいじゃない?
違う違う、そういうことじゃなくて。
否定しようと思って顔を上げれば、近づいてきていた葛城さんに手を掴まれる。
柔らかく、優しく、まるで私が壊れ物みたいに、そっと触れられる。
「期待していいってことか?」
いつもの、優しい口調じゃない葛城さんに、ただ、息を吸うことしかできない。
「否定しないってことは、俺はそう受け取るぞ」
おじの一人称で言ってくれれば、笑ってはぐらかせたのに。
真剣な顔で俺とか、いうから。
もう答えられなくて、ただ、黙り込んでしまった。
「俺はずっと、吉川さんを見ていた。気持ち悪がられるかと思って、黙っていたし、一人称もおじなんて言って、男として見られないようにしていたけど。一ミリでも可能性があるなら、考えて欲しい」
まっすぐな目に、射抜かれて、ただ、頷く。
当真の、ことをまだ好きとは言えないけど。
葛城さんのことを好きになれるともすぐには、答えられない。
「考えてくれるだけでいいんだ。困らせてごめん」
「いえ、あの、考えます。私」
「ありがとう」
ふにゃりと、いつもの雰囲気に戻って笑顔を作る。
心臓のバクバクはまだ、鳴り止みそうになかった。
ぺこりと今日も、丁寧にお辞儀をされる。
「ごはん、召し上がられますか?」
「えっと」
「晴樹さんも待ってるので、ぜひ一緒に」
「あ、じゃあお願いします」
ここに来る前に取ってきた服や生活品を、借りてる部屋に置く。
そして、リビングに向かえば、甚平を着た葛城さんと目が合う。
じ、甚平……?
「吉川さん、今日は、早く帰ってきたんだね」
「毎日毎日遅いと、いいアイディアも浮かばないですから」
いつだったか、葛城さんが部署全体に伝えていた言葉を、口にする。
葛城さんは覚えていたのか、唇を緩めた。
「やっぱり、吉川さんはいいね」
「いい、ですか?」
「うん、素直でなんでも吸収して、自分に適応する。目を掛けてたんだ」
憧れの人からの言葉に、胸が強く跳ね上がる。
どくん、どくんと震える心臓を押さえて、食卓に付いた。
まるで普通のように振る舞いながら、用意されたごはんに手をつける。
「葛城さんにそう言われると、嬉しいです」
小声で口にすれば、葛城さんは目を丸くする。
小さく「どうして?」と問われて、素直に答えるか悩む。
それでも、勇気を出して、口を開いた。
「葛城さんのスポーツ飲料のCMに憧れて、この会社に入ったんです私」
「あれ、か、恥ずかしいな」
「私の背中をぐっと押してくれたんです、あのCMが」
葛城さんは、持っていた箸を置いて、長いまつ毛を、伏せる。
そして、本当に恥ずかしそうに、耳まで赤く染め上げた。
「まだ、右も左も分からない新人時代の仕事だよ」
「でも、本当に好きなんです」
葛城さんがパッと顔を上げて、私を見てから、目を逸らした。
「勘違いするから、ちゃんと主語をつけなさい」
葛城さんの言葉に、言いたいことがわかって手に持っていた箸を落としそうになった。
慌ててしっかり掴んだけど、何を言っていいかわからない。
頭が真っ白で、体全身が、バクバク言ってる。
「吉川さん」
甘い声に聞こえて、昨日の当真が、瑠美が過ぎる。
「別れたばっかりなのに、って感じですよね!」
好き、とかではない。
いや、好きなんだけど。
今の言い方、本当に好きみたいじゃない?
違う違う、そういうことじゃなくて。
否定しようと思って顔を上げれば、近づいてきていた葛城さんに手を掴まれる。
柔らかく、優しく、まるで私が壊れ物みたいに、そっと触れられる。
「期待していいってことか?」
いつもの、優しい口調じゃない葛城さんに、ただ、息を吸うことしかできない。
「否定しないってことは、俺はそう受け取るぞ」
おじの一人称で言ってくれれば、笑ってはぐらかせたのに。
真剣な顔で俺とか、いうから。
もう答えられなくて、ただ、黙り込んでしまった。
「俺はずっと、吉川さんを見ていた。気持ち悪がられるかと思って、黙っていたし、一人称もおじなんて言って、男として見られないようにしていたけど。一ミリでも可能性があるなら、考えて欲しい」
まっすぐな目に、射抜かれて、ただ、頷く。
当真の、ことをまだ好きとは言えないけど。
葛城さんのことを好きになれるともすぐには、答えられない。
「考えてくれるだけでいいんだ。困らせてごめん」
「いえ、あの、考えます。私」
「ありがとう」
ふにゃりと、いつもの雰囲気に戻って笑顔を作る。
心臓のバクバクはまだ、鳴り止みそうになかった。