親に搾取されてきたJKが、偏屈先生と出会って溺愛されるまで
「おかえりなんですか?」
「口答えをするな。俺がおかえりと言ったら?」
「ただいま」
「グッドガール。良い下僕だ」

 夢望先生は確かに口はちょっと悪かったけど、悪い人ではありませんでした。
 お父さんは怒ると私の分のご飯を流しに捨てますが、先生はほっぺを柔く引っ張るぐらいです。

「味噌汁は赤味噌にしろとあれほどー!」
「きいへはへん、いはれてまへん」
「次気をつけないとその腑抜けた顔をおひたしにしてやる」
「一生懸命働きます」

 お母さんは失望すると飽きるまでなじって反省を促してきますが、先生は「オタンコナス!」と言うぐらいです。

「着物の洗い方ぐらいネットで調べてからやりたまえよ君! 本当に情報化社会の産湯に浸かって生まれたインターネットネイティブか!?」
「すみません、調べてこれです」
「ポンコツ下僕! 次気をつけないとお前に糊を付けて干すからな」
「一生懸命働きます」

 来たばかりで勝手が分からず失敗ばかりの私に、他の多くの人が見せてきた『ゴミを見る目』をする事は必ずありませんでした。
 暗く、目を細めて汚物を見るような。片付け忘れた宿題を見つけてしまった時に近い顔を、夢望先生は絶対しませんでした。
 ざまあみろ、お前といるのは楽しいぞと言わんばかりの表情。
 私のどこが、そんなに良いのかは分かりませんが……夢望先生が楽しいのなら、良いんでしょう。

「ふーむ、犬は飼い主の前を歩かせるものなのだな……」

 たまに少し怖いけど。

「ちょっと前を歩きたまえ」
「どこに行けば?」
「……キッチン」

 結局私も、二人でいるのが楽しくて。

「夢望先生」
「君達は良いよな先生先生と言えば原稿が上がると思ってやがる油じゃないんだから絞り上げても出てくるものは俺の怨嗟だと分かっているだろうにヘラヘラヘラヘラやかましいな全く嫌になるやめてやろうかこんな仕事そうしたらお前達も困るだろうよああいやもう俺の代わりなんてごまんと」
「デザートにプリン食べます?」
「食べる」

 私に無関心でいてくれるのか、それとも危害を加えてくるのか。そんな判断を超えているというか。
 なんというか──

「二つ食べる! 二つだ!」

 そういう難しい利害の中で、生きていない存在。
 これまで出会った事のないタイプでした。
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