親に搾取されてきたJKが、偏屈先生と出会って溺愛されるまで
「……わたし」

 自分の事だけのお母さんも。
 横で顔色を変えず返事を待つお父さんも。

「もう、お金は入れない」

 本当に、家族では無いんだ。
 お母さんはそれを聞いた瞬間、穏やかな声からは一転、がなるように怒鳴ってきた。

「家族を殺す気? こんなに大変なのに! それでも人間!?」

 人間、って。
 こんな顔に、なるの?
 それでも人間は、こっちの台詞だよ。

「私は貴女をちゃんと愛しているのに。ここまで育ててきてあげたのに! それを忘れて……洗脳でもされているの? 最近帰りが遅かったものね。その就職先が悪いんでしょう、そうなんでしょう! 大事な家族に酷い事を言うなんて、それぐらいしか思いつかないわ!」

 変な拍子で心臓が踊る。その歪さに吐き気がして、私は胸を抑えた。
 昔は目線を下ろして耐えていたこの光景。
 でも、駄目。
 駄目、こんな奴らから目を逸らしたら。
 絶対に、負けない。

「馬鹿だからっ、貴女は馬鹿だからっ! 騙されたのよ、低学歴……っ! 私とお父さんはこんなにも優秀なのに! 世間の悪意に晒された被害者なのに、さらに追い詰めると言うの!?」

 怖い。嫌だ。頭に白いモヤがかかって、手が震える。
 これまでされてきた事がフラッシュバックして、私の冷静さを奪っていこうとした。
 無意識に目を瞑って、逃げ出そうとしてしまう。
 珈琲カップが持てない。
 怖い。
 怖い。
 唇がはくはくと勝手に動く。

「だから私とお父さんが、お前だけでもと大切に育てたのに。台無しにしたのよ、それを」

 ごめんなさいって。
 私が馬鹿なせいですって、言ってしまいそうになる。
 駄目。珈琲を飲まなきゃ。優馬さんと会った時に飲んだ珈琲とは似ても似つかない、ファミレスの安いもの。
 それでも、飲んだら勇気が貰えると思う。
 優馬さんのように、胸を張れる。
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