親に搾取されてきたJKが、偏屈先生と出会って溺愛されるまで
家に帰った時、お母さんは「おかえり」と言ってくれませんでした。まあ、暖かく帰宅を迎えられるような言葉、中学に上がってから聞いた記憶も無かったのですが。
代わりに「正座」とお母さんが言ったので、靴も脱がずに玄関で膝を床につけます。お母さんは今日丈の長いワンピースを着ており、下を向くとワンピースの端が見えました。
「今日面談だったわよね? 進学出来るの?」
「難しいって」
一拍。その後、私は玄関の壁に思い切り頭を打ち付けていました。目を瞑る間も無い痛みに、私は顔を歪めて涙を零します。けれどその涙は、お母さんからは私の前髪で見えていなかったでしょう。
「家族に申し訳が無いって思わないの? この馬鹿」
ごめんなさいと声に出そうとしても、喉がガラガラで声が出ません。何か刺々しいものが邪魔をして、私のごめんなさいを拒んでいるようでした。それに腹を立てたのか、お母さんはもう一度私を叩きました。
次は反対側の頬。流石に鏡がある方に突っ込むのは不味いと思い、体を固くして耐えます。
「胡桃(くるみ)は馬鹿なんだから私の言う事を聞きなさいって言ったわよね? せめて推薦取ってって……なのにこのザマは何? 進学出来ません? 親の言う事をなんだと思っているの」
お母さんの声がどんどん大きくなります。裏返って、スリッパを履いていない裸足の爪先が力んで丸まっていました。こういう時、土下座をしないとお母さんは三時間でも四時間でも叫びます。
そして、喉が痛いのを私のせいにしてまた不機嫌になるので、私は震える手を揃えて床におでこをくっつけました。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい? まるで私が酷い事してるみたいじゃない。違うの。私は、胡桃の為を思って言っているのよ。貴女みたいな低学歴で馬鹿な女、安い低賃金で使い潰されて鬱になるのがオチなんだから。そうならない為に、私と同じように良い大学に入りなさいと言っているのよ。分かる?」
「はい」
「分かってたら進学出来ませんなんて恥もなく言える訳無いのよ。高卒だなんて、考えるだけで吐き気がするし……はあ、もう頭が痛いわ。私とお父さんの子なのに」
「私のせいです」
「当たり前でしょう? 良かったわね、優しいお母さんで。普通ならとっくの昔に捨ててるわ。家族だから、ここまで面倒見てやってるの」
お母さんはまだまだ喋ります。それに反論せず、私はただ背負ったまんまのリュックサックの重みを感じていました。いつも教科書を全部持ち帰るから、私のリュックサックは人一倍重いのです。
無意味な努力の石が、私の背中を圧迫しました。
さっき叩かれた頬が熱くて痛くて、正座しっぱなしの足も限界で、胸に溜まる黒い澱のような心のモヤモヤは呼吸を妨げます。でも、ここで泣いてるとバレたら頭を踏まれるに決まっているので口を開けて我慢しました。
口を開けていると、音もなく泣けるんですよ。知っていましたか?
「ただい……なんだこれは」
「あら、おかえりなさいお父さん」
代わりに「正座」とお母さんが言ったので、靴も脱がずに玄関で膝を床につけます。お母さんは今日丈の長いワンピースを着ており、下を向くとワンピースの端が見えました。
「今日面談だったわよね? 進学出来るの?」
「難しいって」
一拍。その後、私は玄関の壁に思い切り頭を打ち付けていました。目を瞑る間も無い痛みに、私は顔を歪めて涙を零します。けれどその涙は、お母さんからは私の前髪で見えていなかったでしょう。
「家族に申し訳が無いって思わないの? この馬鹿」
ごめんなさいと声に出そうとしても、喉がガラガラで声が出ません。何か刺々しいものが邪魔をして、私のごめんなさいを拒んでいるようでした。それに腹を立てたのか、お母さんはもう一度私を叩きました。
次は反対側の頬。流石に鏡がある方に突っ込むのは不味いと思い、体を固くして耐えます。
「胡桃(くるみ)は馬鹿なんだから私の言う事を聞きなさいって言ったわよね? せめて推薦取ってって……なのにこのザマは何? 進学出来ません? 親の言う事をなんだと思っているの」
お母さんの声がどんどん大きくなります。裏返って、スリッパを履いていない裸足の爪先が力んで丸まっていました。こういう時、土下座をしないとお母さんは三時間でも四時間でも叫びます。
そして、喉が痛いのを私のせいにしてまた不機嫌になるので、私は震える手を揃えて床におでこをくっつけました。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい? まるで私が酷い事してるみたいじゃない。違うの。私は、胡桃の為を思って言っているのよ。貴女みたいな低学歴で馬鹿な女、安い低賃金で使い潰されて鬱になるのがオチなんだから。そうならない為に、私と同じように良い大学に入りなさいと言っているのよ。分かる?」
「はい」
「分かってたら進学出来ませんなんて恥もなく言える訳無いのよ。高卒だなんて、考えるだけで吐き気がするし……はあ、もう頭が痛いわ。私とお父さんの子なのに」
「私のせいです」
「当たり前でしょう? 良かったわね、優しいお母さんで。普通ならとっくの昔に捨ててるわ。家族だから、ここまで面倒見てやってるの」
お母さんはまだまだ喋ります。それに反論せず、私はただ背負ったまんまのリュックサックの重みを感じていました。いつも教科書を全部持ち帰るから、私のリュックサックは人一倍重いのです。
無意味な努力の石が、私の背中を圧迫しました。
さっき叩かれた頬が熱くて痛くて、正座しっぱなしの足も限界で、胸に溜まる黒い澱のような心のモヤモヤは呼吸を妨げます。でも、ここで泣いてるとバレたら頭を踏まれるに決まっているので口を開けて我慢しました。
口を開けていると、音もなく泣けるんですよ。知っていましたか?
「ただい……なんだこれは」
「あら、おかえりなさいお父さん」