親に搾取されてきたJKが、偏屈先生と出会って溺愛されるまで
「じゃ、胡桃さんは卒業したら就職なんだ」
「はい」

 コンビニ夜勤でお客様がいない間、私と店長は休憩室でよくお話します。休憩室は人が二人入ったらやっとの空間なので寛げるような場所では無いのですが、家事か勉強しか出来ない家よりはよっぽど気が落ち着けました。
 店長は小太りのおじさんで、お父さんと同世代です。でも、何かにつけて「馬鹿だから」と言う事は無いですし、覚えが悪い私にも笑って次のチャンスを与えてくれる人でした。朝に新聞配達のバイトがあると言うと、廃棄処分にする筈だったおにぎりを「食べていきな」と渡してくれるし

「俺も馬鹿だよ! 店で買い物する時、片手に電卓持ってやってる」

 と朗らかに笑う姿に、私は店長が本当のお父さんだったら良いのになあとよく思います。
 なんて、私みたいな不出来の女が娘なんて気持ち悪いと思うから、言わないのですが。

「住み込みの所に行きなよ。家は窮屈だろ」
「うーん、でも、これまで育てて貰った恩が……」
「うん……」店長は返事を濁した後、パッと笑って言いました。「なら、よっぽど待遇が良かったりしたらどうかな?」
「待遇?」

 私がオウム返しに聞くと、店長は頷いてパソコンを操作します。すると、横のコピー機から一枚の紙がゆっくりと飛び出ました。

「知り合いが困っているんだけど……住み込みだけど、初月二十万は必ず出すって言うんだ。後は出来高。良い条件じゃないかな?」
「危ないお仕事ですか?」

 二十万なんて、お母さんとお父さんの給料を合わせてやっと数だった筈。それを馬鹿な私が? 思わずじとっとした目で店長を見やると、慌てたように太い指を胸の前で振りました。

「違う違う! 家政婦の……いや、今風に言うならハウスキーパーのお仕事だよ。確か胡桃さんって家事得意だよね?」
「それなりには」
「ならピッタリだ。優しくて丁寧な仕事をする胡桃さんなら、きっとあの偏屈とも合うだろう」
「偏屈……ですか?」
「ああ」
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